2026年06月16日

地方創生インタビュー vol.3
「地域の数だけ答えがある」
地域通貨で問い続ける、地方の未来

「地域通貨=キャッシュレス化ではない」――株式会社フィノバレー代表取締役社長・川田修平氏はそう言います。北海道から熊本まで約20の自治体・金融機関にデジタル地域通貨プラットフォームを提供してきた川田氏にとって、地域通貨はPayPayのような全国一律のサービスとはまったく別物。それぞれの地域が抱える固有の課題に応じて形を変え、地域経済とコミュニティを再構築するためのツールです。
地方創生の最前線で問い続ける川田氏に、地域通貨の可能性と、自身の原点についてお話を伺いました。

株式会社フィノバレー 代表取締役社長 川田 修平 様

株式会社フィノバレーとは
デジタル地域通貨プラットフォーム「MoneyEasy」を開発・提供するフィンテック企業。北海道の別海町から熊本県の人吉市まで約20の自治体・金融機関と連携し、地域ごとの課題に応じたデジタル地域通貨を展開している。岐阜県飛騨市の「さるぼぼコイン」、千葉県木更津市の「アクアコイン」、長野県白馬村・小谷村の「アルプスPay」、島根県海士町の「ハーンPay」など、地域の個性を活かした通貨設計で知られる。営業部門を持たず、「波長の合うパートナーと共に地域課題に向き合う」姿勢で事業を展開している。

地域通貨は、地域の課題を解決するツール

―フィノバレーの現在の事業状況を教えてください。

提供先は現在約20の自治体・金融機関で、これまで毎年4〜5件ずつ新しく増えています。北は北海道の別海町から、南は熊本県の人吉市まで、地域も規模もさまざまです。東京都の世田谷区や板橋区のような都市部もあれば、島根県の海士町のような人口2,200人の離島もある。その多様さこそが、地域通貨というものの本質をよく表していると思っています。

地域通貨はよく「キャッシュレス化」と一括りにされますが、PayPayのような全国一律のサービスとはまったく異なります。本来、地域通貨は「地域の課題を解決する通貨インフラ」です。キャッシュレス化は、その手段の一つに過ぎません。

―地域によって、使われ方はどう変わるのでしょうか。

同じ仕組みでも、地域の課題が違えば、使われ方もまったく変わります。長野県の白馬村は、欧米系の観光客が多く訪れるリゾート地です。円安の影響もあり、観光客はラーメンが1,500円や2,000円でも喜んで払ってくれる。でも、物価がその水準まで上がると、地元の人の日常生活が苦しくなってしまう。

2025年11月にスタートした「アルプスPay」は、その課題への一つの答えです。例えば、村民がマイナンバーカード認証を通じてアルプスPayで支払うと、500円分のポイントが還元される。実質的な「地元割引」の仕組みで、観光客と地元住民に異なる価格帯を提供できます。

―島根の海士町や東京の世田谷区では、どんな使われ方になるのでしょうか。

海士町は、人口約2,200人の離島です。島内にいくつかの集落があり、それぞれに高齢者が営む小さな商店がある。コンビニも、毎日営業する銀行もない。冬になれば海が荒れてフェリーが欠航することもあり、現金の調達自体が難しい環境です。だからこそ、キャッシュレスで決済できる仕組みへのニーズが切実にありました。

そこで導入した地域通貨「ハーンPay」は、ユーザーへのポイント還元と同時に、半分を「お裾分け」としてお店にも還元する仕組みです。「お互いに恵む」という互恵をコンセプトに、「お互い様」の文化をテクノロジーで形にしました。また、島留学生など海士町と縁ができた人たちとの関係をどう継続していくか、ふるさと納税との連携なども含めて、関係人口を増やす取り組みも行政と一緒に進めています。

東京の世田谷区では、120以上の商店街の地元の中小個店を支援するための「せたがやPay」を展開しています。大きな資本を持つチェーン店と個店のリソース差を、社会インフラという形で埋めていく。このように、同じ地域通貨でも、向き合う課題はまったく違います。

📖 地域通貨をもっと詳しく知りたい方へ

川田さんが語る地域通貨の事例や、テクノロジーを活用した地方創生の取り組みを詳しく知りたい方は、『稼ぐ地方』をあわせてご覧ください。
書籍情報:https://book.cm-marketing.jp/books/9784295411628/

日本の3分の2は、東京圏の外に住んでいる

―地域通貨との出会いは、どんなきっかけだったのでしょうか。

最初から「地域通貨でやりたいことがある」という動機はなくて、たまたまプロジェクトを引き受けたのが始まりです。7〜8年前は、QRコード決済が日本でほとんど普及していない頃で、手探りの状態でした。

でも、やっていくうちに気づいたんです。日本の人口の3分の2は、東京圏外の地域に住んでいる。みんな地元を愛していて、もっと良くしたいと思っている。そういう人たちの課題に向き合ううちに、単なる決済ツールの提供では足りないと感じるようになりました。「キャッシュレスを超えた何か」を目指すようになったのは、そういう気づきがあったからだと思います。

今振り返ると、はじめの頃に想像していた世界とは全く違うところにいます。計画通りになんて、まったく進んでいない。でも、それで良かったと思っています。これからの5年、10年も同じで、今想像したところでその通りにはならないでしょう。「思い描いた計画通りに今があるわけじゃない」ということが、自分の学びとして誰かに伝えたいことの一つです。「現状の損得だけで動かない」ということが、自分の中で一番大切にしていることかもしれません。

高知からリモートで取材を受けてくださった川田さん

まだ解けていない問い。それでも前を向く理由

―地域通貨の普及において、今も悩んでいることはありますか。

正直、やりたいこととできることのギャップは、まだ大きいです。

ユーザーが地域通貨を選ぶ動機として、「お得だから」という外発的な理由が強い現状があります。コロナ禍以降の物価高対策でポイント還元施策が増え、その流れで地域通貨を使う人が増えた面は確かにある。でも、それだけでは続かない。

本当に伝えたいのは、地域通貨を使うことが地域のためになっているという実感です。安いからという理由で大手チェーンを選び続けると、地域の個店が減り、お金が外に出ていく。結果として自分たちの暮らしも貧しくなる。その構図に気づいて、地域を選ぶ行動につなげてもらうにはどう表現すればいいのか。それがいまだ解けていない問いで、大きなチャレンジです。

お金には「対価」「交換」という尺度がありますが、その中に気持ちや感情、想いを埋め込めるはずなんです。たとえばお小遣いを渡すとき、ただ渡すのと、「このお金がお店でどう使われ、社会にどう役立つか」を伝えながら渡すのとでは、お金の「価値」はまったく違う。そういう価値をいかに表現するか、もどかしいけれど、問い続けています。

―川田さんが想像しなかった、地域通貨の意外な利用方法などはありましたか?

地域の人たちが「自分ごと」として地域通貨を捉えるようになると、想像を超えた使い方が出てくるんです。「さるぼぼコイン」では、地域通貨でしか買えない裏メニューがあります。「さるぼぼコインで山が買える」「さるぼぼコインで歌が買える」なんていう使い方まで出てきた。一人きりで考えていたら絶対に思いつかないようなアイデアが、みんなで考えることで生まれてくる。そういう瞬間に立ち会えるのが、この仕事の面白さだと思っています。

子どもたちの背中を押せる地域へ

―川田さんが思い描く、地域の未来を教えてください。

大前提として、いろんな特色を持った地域が存在している社会の方が美しいと思っています。効率だけで考えれば、都市集中の方が合理的かもしれない。でも、多様な個性を持った地域があることの方が、子どもたちやその先の世代にとっていい社会なんじゃないかと思っています。

例えば、IT人材が東京に集まるという今の構造が少し変われば、若い人や個性的な人が地域に根ざして、もっと面白い取り組みをどんどんしていけるはずです。そういう人たちを支援できる仕組みを作ることが、私たちのチャレンジだと思っています。

―地域通貨を通じて、子どもたちに届けたいものはありますか。

次のチャレンジとして、地域通貨を使って子どもたちの小さな挑戦を地域全体で応援する仕組みを作りたいと思っています。文化祭でお店を出す、海でワカメの養殖を実験する、ごみを集めて映画を上映する。そういった挑戦に、地域の大人たちが一緒に応援を寄せられるような仕掛けです。

これは自分自身の実体験からきています。私は地元の大人に背中を押してもらった記憶があまりなく、きっとたくさんの大人に支えられて育ったはずですが、私自身の未熟さや感受性の低さもあって、その実感を持てず、地元への愛着も薄いことが大きなコンプレックスです。でも、もし知らないおじいちゃんやおばあちゃんに応援してもらいながら何かに挑戦できた原体験があったならば、きっと違っていたのではないかと思います。そういう体験がシビックプライド、地元への誇りや愛着につながっていく。そういう地域を実現したいし、そのための仕組みを支える会社でありたいと思っています。

自分が生きているうちには完成しないかもしれない。でも、考え方と仕組みをしっかり次の世代に残していくことが今の自分にできることだと思って、日々取り組んでいます。

■編■集■後■記■
インタビューの中で印象的だったのは、川田さんが成功事例と同じくらい、「まだ解けていない問い」を率直に語ってくださったことでした。
地域通貨を使うことが「誰かのためになっている」という実感をどう届けるか。大きな構図は見えているのに、表現が追いつかないもどかしさ。その正直さの中にこそ、地方創生と真剣に向き合っている人の言葉があると感じました。
「自分が生きているうちには完成しないかもしれない」と言いながらも、前だけを向き続ける川田さん。地域の数だけある課題に、地域の数だけある答えを作り続けるフィノバレーの挑戦は、まだ始まったばかりです。
川田 修平(かわた しゅうへい)
株式会社フィノバレー 代表取締役社長

1999年 慶應義塾大学総合政策学部卒業、同年PwC入社。その後、BCG、GEを経て、エス・エム・エスで看護師などの医療従事者向けコミュニティサイトの運営、看護師向け雑誌、通販事業の買収・PMIから運営・推進を担当。 2015年アイリッジにて、FinTech領域での新規事業プロジェクトを推進し、 2018年よりデジ タル地域通貨を中心としたFinTech事業を子会社化(フィノバレー)し、代表取締役社長に就任。2023年より高知信用金庫 理事を兼務。少子高齢化の社会問題や、地域活性化をテーマに、金融とIT(特にスマートフォンアプリ)を使ったソリューションの開発、推進中。

取材・執筆:木村 奈央
コネクト編集部

「コネクト」立ち上げメンバー。以前は社会人向け教育・研修事業を展開する企業にて、オウンドメディア編集部の一員としてメディア運営全般に従事。当面の目標はペーパードライバーからの脱却。

<会社情報>

株式会社フィノバレー
所在地 東京都世田谷区太子堂2-17-5 佐藤ビル3階
設立 2018年6月15日
URL

https://finnovalley.jp/

※情報と肩書は取材当時のもの
※一部画像は川田様提供
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