2026年09月07日

「いいな」で終わらせない。
たんぽぽの丘が紡ぐ
アートと出会いがつくる新しい福祉のかたち

大阪府大阪狭山市の特定非営利活動法人たんぽぽの丘は、障がいのある方々が日中を過ごす生活介護・就労継続支援の事業所です。代表を務める野邑浩子氏のもとで生まれたのが、メンバーが手がけるアート作品。地ビールのラベルやオーダーメイドの額縁アートとして、次々と地域や企業とのつながりを生んでいます。大赤字だった法人を引き継いだ経緯から、周りを巻き込む行動力の源まで、野邑代表の想いを伺いました。

特定非営利活動法人たんぽぽの丘 代表 野邑浩子 様

「作業所イコールクッキー」にしたくない、が始まり

─ まずは事業の概要を教えてください。

このたんぽぽの丘は障がいのある方が日中を過ごす作業所です。生活介護をメインにした事業所と、就労、お仕事をメインにした事業所の二つを一緒に運営しています。障がいのある方の通所施設という言い方がわかりやすいかもしれません。生活介護の方は日中ここで過ごして帰宅し、就労メインの事業所では、毎月お給料をお渡ししていて、手取りで大体3万円前後を持ち帰っていただいています。

─ 現在、力を入れている取り組みはありますか。

アートですね。メンバーが作った絵を「使いたい」と声をかけていただくことが増えていて、地ビールのラベルになったり、絵や貼り絵を額装して、壁掛けアートとして展開したりいろんな作品を展開しています。もともとはクッキーやポップコーンを作っていた時期もあったのですが、道の駅やサービスエリアに置いてもらっても、どうしても高い値段をつけることはできません。それなら、オリジナルのものを、適正な価格で買っていただきたいと思ったんです。ブランドと同じ発想ですよね。コロナ禍で外に出られなかった時期に、メンバーの作品がどんどん増えていったので、それを形にしようと思ったのがきっかけです。

手描きのラベルから、オーダーアートへと商品化

「太陽と青と黄色」というイメージから生まれたオーダーアート

─ みなさんのアートはどのように商品になっていくのですか。

声をかけていただくのがほとんどでしょうか。「もっと面白いことができないかな」と思っていたところに、知り合いの紹介から地ビールのお店でラベルとして使っていただくようになりました。文字も字を書くのが得意なメンバーに任せていて、みかんのビールという商品では、その方の独特な手書き文字がそのままラベルになっています。

また、今年から始めたのが、額縁に入れたオーダーアートです。こちらは、絵が得意な方に「太陽と青と黄色」といったイメージだけ伝えて下描きしてもらい、別のメンバーが貼り絵にして仕上げたものです。たとえば、カフェの開店祝いや花屋さんの飾りとして、また街の小さなお店からも「トイレに飾りたいから緑色で」といったような注文もあります。価格は1点1万5000円で設定しており、細かい作業なので月に1点ほどしか作れませんが、すでに3件ほどお待ちいただいています。

 

貼り絵、線画、リースまで、表現方法はメンバーごとに様々

梟と満月をモチーフにした大きな貼り絵

─ ところで、他の施設と比べて、たんぽぽの丘らしさはどんなところにあるのでしょう?

まずは施設の広さですね。うちは800坪ほどあるのですが、すごく開放感があると思います。晴れている日はみんなで外に出て、太陽の下でヨガなどもするんです。他の施設さんは古民家を改装した場所が多く、普通のお家ほどの広さなので、どうしても手狭な感じが出てしまう。うちはのびのびと過ごせるのが特徴です。もちろん忙しくて慌ただしい時もありますが、それも含めてみんなで一緒に過ごす、大家族のような雰囲気があります。スタッフは今16人ほどで、メンバーの中には企業さんの清掃業務に出ている人たちもいるため、それなりの規模となっています。

砂漠にラクダや馬を描いた大作も

─ アートを通じた面白い出会いもあるそうですね。

吉本の芸人さんとご縁があって、何度か来ていただいています。その方も発達障がいがあるのですが、単独でのライブをされているんです。今度、大阪狭山市で障がい者アートフェスティバルを開催する際にも来ていただく予定です。障がいがあっても舞台に立てるというのは、本当に素晴らしいことだと思っています。

─ イベントは他の施設や周囲の方も巻き込んで、開催されているとか。

はい。うちだけで完結させず、近隣の障がい者施設10か所ほどに声をかけて、7割くらいは参加してくださいます。100人近く集まるんですよ。自治会や子ども会にも足を運んで直接お誘いする、いわゆる足で稼ぐスタイルです。実際に顔を出して関係を積み重ねていくことが、結局は一番の近道だと感じています。おかげで3か月に1回ほど、地域の方も一緒になってイベントを続けられています。この間は、ボッチャの大会で盛り上がりました。

相手に興味を持つことで、信頼関係を築く

─ 野邑さんが代表に就任された経緯を教えてください。

もともとは心理士として自宅でカウンセリングのサロンをしていて、週に1回、こちらのスタッフ向けに手伝いに入ったのが始まりでした。手伝ううちにスタッフが足りなくなって週2回になり、私自身、自分の仕事で経費管理をしていたこともあって、施設の無駄もだんだんと見えてくる。当時の代表にいろいろと相談されるうちに「もう限界だ、誰かに売ろうと思っている」という話が出て。売るのではなく、なんとかできませんかという話をしていく中で、引き継ぐことになりました。実際は大赤字で、立て直しが必要な状態でしたね。

─ 引き継いでから特に大変だったことは。

やはりコロナ禍の時でしょうか。こうした福祉施設は病院と同じ仕組みなので、利用者さんが来てくださらないことには収入がないという側面があります。来てもらえないことが一番こたえましたね。引っ越しなどで辞めていく方もいましたが、気づくと戻ってきてくださることも多いんです。みなさんにとって、ここが心地良い場所になっていたのかなと思います。

─ 運営するにあたり、大事にしていることはなんでしょうか。

少数意見こそ大切にしたいと思っているため、とにかく一人ひとりとよく話をしています。就業時までの空いている時間や昼休みの1時間を見つけては、1対1で。たとえば、スタッフが身につけているピアスや髪型、いつもと違う服装にもすぐ気づいて声をかけたりもします。身の回りのものは誰でもこだわって選んでいるものなので、その人が選んだ理由やこだわりの話を聞いて、私も一緒に楽しみたいんです。相手に興味を持てば、相手も話を聞いてくれるようになる。それは利用者さんに対しても同じですね。

とはいえ、引き継いだ当初は、私が一番年下で一番社歴も浅かったので、正直あまり強くは意見を言えませんでした。最初のうちはそれぞれ好きなように働いてもらい、何か必要な際には判断するという形で数年ほど過ごしていたのですが、ある時、スタッフが「このままでいいのかな」と歩み寄ってきてくれました。言葉以上に行動で示すことで、自然と信頼関係が育っていったのかもしれません。

次の目標はジュエリー展開。「良いな」で終わらせず、可能性を手繰り寄せる

─ 今、挑戦したいことはありますか。

作品の数を増やすというよりも、商品の付加価値を上げていきという方向でしょうか。私自身、すごく好きなジュエリーの領域に踏み込みたいと思っています。今、東大阪の金属加工の工場さんに話を伺っている段階です。著名な方がプロデュースするブランドの事例はあっても、名もない障がいのある方の手によるジュエリーブランドというのはまだ聞いたことがないですし、実現できたら面白いんじゃないかと思っています。

すてきなものを見かけたら、店員さんに「これはどこで作られているんですか」と聞いてしまう性分なんです。「良いな」で終わらせず、誰が作ったのかまで突き詰めて聞く。私自身のこういうところが、「巻き込み力」につながっているんですかね。不思議なことに、つながるご縁は、必要な時に必要な人が現れる感じです。

─ 行動力の源は、「良いな」で終わらせないところにあるのですね。それでは最後に、今後の展望を聞かせてください。

会社や事業を大きくすることよりも、周りの人がもっと幸せになっていってほしいと願っています。今は私と家族、従業員だけですが、その家族や、さらにその先まで、関わる方たちがみんな笑顔になれるように。うちだけでなく、他の事業所ともつながって笑顔を増やしていきたいですね。横のつながりをもっと増やし、大切にしていきたいと思います。

<会社情報>

特定非営利活動法人たんぽぽの丘
所在地 大阪府大阪狭山市山本中1358
設立 2011年11月
URL

https://www.big-advance.site/c/210/1358/

https://tanpoponooka.com/

※情報と肩書きは取材当時のもの
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