2026年07月15日

セミと家(猫)と演劇と。
但馬信用金庫「たんしん演劇部」が紡ぐ、演劇のまち・豊岡の物語

但馬信用金庫の「たんしん演劇部」。
第1回では演劇部が生まれた経緯を、第2回では公演後に生まれた変化をご紹介しました。最終回となる今回は、3人それぞれの「演劇との出会い」と、これからの展望をお聞きしました。平田オリザ、シェアハウス(猫)、アブラゼミ。「演劇のまち」豊岡が引き寄せた、三者三様の物語です。

但馬信用金庫 人事部 小山 尚之 氏 / 総合企画部 経営企画課 稲子 朋花 氏 / 加藤 碧 氏

平田オリザとの出会いが、人生を変えた

─ これまでの出会いの中で、転機になったものを教えてください。まずは稲子さんから。

稲子氏 やはり演劇です。中学生の頃、姉の友人が出演する舞台を見に行ったことがきっかけです。「こんな世界があるんだ」と衝撃を受けて。そこから演劇にのめり込んでいきました。

─ それが豊岡や芸術文化観光専門職大学につながっていくんですね。

稲子氏 私の地元に「高校生と創る演劇」というプロの演出家やスタッフが高校生と舞台をつくるプロジェクトがあるんです。高校2年生の時に「転校生」という平田オリザさんの作品に参加したんですけど、来たんですよ、平田オリザさんが。

小山氏 えっ。平田さんに会ってるんだ!

稲子氏 実は、会ってるんです。     平田オリザさんが学長を務める芸術文化を専門的に学べる公立の大学ができると知って。芋づる式に豊岡にやってきました。

左から 加藤氏/小山氏/田結庄氏/稲子氏

1匹の猫に導かれた、演劇という居場所

─ 加藤さんはいかがですか?

加藤氏 私の転機は、家(笑)。大学3年生の夏に猫を拾ったんですが、当時住んでいたところはペット不可だったんです。預かってくれることになった友人2人がシェアハウスに住んでいて、そこが演劇好きが集まる家だったんです。

─ 家から演劇につながりましたね。

加藤氏 プロの俳優や作家も遊びに来るような家で、いろんな人に出会うようになって、気づいたら演劇にどっぷりはまっていました。いつの間にか私もそこに住むようになって、卒業後も豊岡に残ることにしました。友人たちも今も演劇に携わっています。意志の強い人たちで、ものすごく影響を受けました。猫を拾わなかったら今ここにいなかったかもしれないと思うと、不思議ですよね。地縁も親戚もない土地なんですが、人のつながりがあったから残れた、という感じです。

─ ちなみに、その猫はどうなったんですか?

加藤氏 神戸のものすごい豪邸にもらわれていきました(笑)。

「これでいいのか俺!」セミが火をつけた演劇への情熱

─ 小山さんはいかがですか?

小山氏 私の転機は、セミです。

─ セミ、ですか(笑)。

小山氏 ある夏の日に、道端で死にかけているセミを見つけたんです。仰向けになってもがいているアブラゼミ。そのもがいている姿が自分と重なったんです。定年が近づいてきて、平凡な老後が見えてきて、「これいいのか俺!!」と、思ってしまったんです。

─ ……もしかして、そこから演劇に?

小山氏 今まで演劇に興味などなかったんですけどね、ふと「演劇だ」って思ったんです。それから大阪の演技スクールに毎週通い始めたんです。そこから演劇部をつくるわけです。

加藤氏 創設者はアブラゼミってことでいいですか(笑)。

次の舞台へ。2026年、たんしん演劇部の挑戦

終業後に2時間行われる稽古のようす

─ これからの豊岡での活動、展望を聞かせてください。

加藤氏 母校への恩返しというか、還元できるものがあればなと考えています。信用金庫だからこそできるつながりを活かして、豊岡でやりたいことを見つける若者が増える、その一助になれたら。今年(2026年)は、学生と一緒にできることがないか考えているところです。

稲子氏 観光を学んできた意味も込めて、観光に特化した人間になりたいというのが一つあります。地域を実際に動かしている人たちに会いやすいのが豊岡の魅力で、今度は自分が刺激を与えられる側になりたい。まずは小さなことからちょっとずつ進めようと思っています。

─ 最後に、全国の地域企業や金融機関で働く方々へメッセージをお願いします。

小山氏 この豊岡という地域は、人口減少も少子高齢化も進んでいて、数字だけ見たら厳しい現実があります。でも、地域経済は縮小の現場じゃなくて、再創造の現場だと思っています。大都市ではできない挑戦が、地域ならできる。

地域にはまだ物語がある。今日お話ししたように、平田オリザさんと猫とセミがつながって、今があるわけです。確かに私たちが始めた演劇部は前例がないことで、難しく感じられるかもしれない。……でも私は、地域の足元に必要なのは前例じゃなくて、可能性だと思っているんです。

前例のない挑戦を始める。地域から、小さな一歩から、でも本気で。そんな気持ちで、一緒に面白くしていきましょう。

 

第1回:会場は営業店のロビー!たんしん演劇部、誕生の舞台裏はこちら
第2回:「あの演劇部の!」と声をかけられる存在に。公演後のストーリーはこちら

<会社情報>

但馬信用金庫
所在地 兵庫県豊岡市中央町17-8
設立 1924年8月(創業)
URL

https://www.tanshin.co.jp

※情報と肩書は取材当時のもの
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