印刷屋がLEDホログラムで日本一を目指す
田中印刷所が描く
3DCG×デジタルサイネージの未来
滋賀県に拠点を置く有限会社田中印刷所。その名前から想像する「印刷屋」のイメージは、代表取締役・田中由一氏に会うと見事に覆される。LEDホログラフィックファン、3DCG制作、デジタルサイネージ──いまや同社は関東の大手企業から引き合いが絶えない、次世代の映像演出のプロ集団へと現在進行形で変化を続けている。印刷からデジタルへの大胆な業態転換、中国企業との深いつながり、そしてBig Advanceを通じた新たな出会いまで、田中氏が歩んできた軌跡とこれからの展望を伺いました。
有限会社田中印刷所 代表取締役 田中 由一 様
「印刷屋がCGをやっている」──業態転換、その始まり
─ まずは事業内容と、現在に至る経緯を教えてください。
当社は印刷会社という名前ではありますが、いまはウェブ制作やLEDファンと呼ばれるデジタルサイネージ事業を柱に、従来の印刷から業態転換を進めているところです。地元ではまだあまり知られていないかもしれませんが、関東、特に東京の企業様からの引き合いは多く、LEDホログラフィックファンの分野ではGoogleで検索していただくと上位に表示されるほどになっています。
現在、手がけているLEDホログラフィックファンというのは、回転するLEDに映像を投影することで、まるでホログラムのように立体的・浮遊的に見える商材です。裸眼で立体感を楽しめる点が大きな特長で、昼間でも鮮明に表示でき、夜間はさらに美しく見えます。以前はプロジェクターを使ったバーチャルマネキンやプロジェクションマッピングを手がけていましたが、費用対効果や技術の変化に伴い、LEDへとシフトしてきました。
この転換の根幹にあるのが、社内で培ってきた3DCG制作の技術です。もともと建築パースやパチンコ業界向けの3D映像制作から始まり、いまではキャラクター制作まで手がけています。「CG×LED」という組み合わせで、お客様に最適なサイネージをご提案できる体制を整えてきました。
※LEDホログラフィックファンの実際の映像は、田中印刷所公式YouTubeチャンネルでご覧いただけます。

印刷会社からは想像できない装置が並ぶ社内
スーパーリアリズムへの憧れが、3DCGの扉を開いた
─ 田中代表がCGやデジタルに興味を持ったきっかけは何だったのでしょうか?
昔から「スーパーリアリズム」という絵画技法に強く惹かれていました。本物と見分けがつかないほどリアルに描く技法で、それを突き詰めるとCGになっていくんです。カメラで撮った写真のように描く──その感覚がずっと好きでした。私は印刷会社の3代目ですが、高専でグラフィックを学んでいたこともあり、視覚表現への関心は常にあったと思います。
「印刷から離れたい」という気持ちも正直ありましたね(笑)。転機となったのは約15年前、中国・大連に合弁でデザイン事務所を開設したことです。中国では3DCGとグラフィックデザインを掛け持ちできる人材が非常に多く、そこで3DCG制作のノウハウを吸収しました。言語や文化の壁、コンプライアンスの問題もあり2年で撤退することになりましたが、その後も芸大の先生方と細々とCG制作を続けた経験が、いまの事業の土台になっています。
大手企業との出会いが証明したこと
─ これまで特に印象に残っているビジネスの出会いはありますか?
やはり大手ビール会社さんとの出会いが最大の転機でした。東京の展示会「JAPAN SHOP」に出展していた時、営業推進部の執行役員の方が立ち寄られたんです。翌週に会社訪問すると、40人以上の社員が揃った会議室で「これをどう広めるか考えなさい」と、当社の製品を見せていて。ひょっとして、これは決まったのかな……と(笑)。
当時展示していたのは「バーチャルマネキン」という、CGキャラクターがスーパーの売り場で商品説明をするという製品です。派遣スタッフの人件費と置き換える形で採用いただき、大きなお仕事をいただきました。社内でも「本当に大丈夫なの?」という声があった中での受注でしたが、あの出会いは「この道で進んでいける!」という確信を与えてくれました。
もうひとつ忘れられないのが、大手カード会社さんとのご縁です。ウェブ経由でご連絡をいただき、「カード決済端末のARプレゼンをつくってほしい」とのご依頼でした。夕方に話を受けて、夜中に3DCGを仕上げ、翌朝提出したところ、「こんなスピード感のある会社はいままで見たことがない」と感激していただいて。しかも見積もりを見て「これ、間違ってないですか?」と言われるほどの価格で(笑)。誠実さとスピードが、地方の小さな印刷会社の武器になると実感した瞬間でした。夜通しで作業を頑張ってくれたスタッフたちにも本当に感謝しています。
中国から学ぶ「つくりながら考える」創造力
─ ところで、そうした新しい技術や情報はどこから仕入れているのですか?
中国からの情報が非常に多いです。かつて合弁事業で一緒に仕事をしたスタッフがいまは独立して活躍していますし、いまでもネットワークが続いています。去年も6月に中国へ渡り、取引のあるLEDファンメーカー1社、LEDパネルメーカー5社を深圳で直接視察しました。口頭での説明と実際の工場現場は全然違いますから、自分の目で確かめることが大切だと思っています。
中国のモノづくりで刺激を受けるのは、「つくりながら考える」スピード感です。日本は完成形ができてから動く文化ですが、中国は先に出してブラッシュアップしていく。そのスピードには正直驚かされます。
新宿の巨大猫が飛び出すことで有名な3D広告(3Dビルボード)も、中国では急成長しました。ショーウィンドウをいかに広告媒体として使うかという発想力はとにかくたくましく、非常に豊か。深圳は日本で報道されるような「停滞した中国」とはまったく別の世界でした。

技術を磨き、さまざまな展示会で声がかかる
Big Advanceで生まれた「誠実な取引先」との出会い
─ Big Advanceを導入されたきっかけはいかがでしょう?
お付き合いのある金融機関さんからのご紹介で始めました。主にマッチング機能を活用しています。当社のような事業内容ですと、なかなかぴったりのマッチング相手を見つけるのは簡単ではないのですが、それでも思わぬご縁が生まれています。
─ 具体的にどのような出会いがありましたか?
印象に残っているのが谷口シール印刷さんとのご縁です。当社はシール・ラベル印刷も手がけているのですが、従来のシールメーカーさんでは「お客様のニーズに合った用紙を見つけてほしい」とお願いしても、即座に「それはありません」と言われることがあって。Big Advanceを通じて谷口シールさんに相談したところ、成分分析まで行って最適な用紙を探してくださったんです。
もしできなかったとしても「ここまで調べました」という誠意を見せてくださる。その姿勢に信頼を感じましたし、「私たちも見習わなければ」と思わされました。オンライン会議でのやりとりだけでしたが、関係の質が違うと感じています。
また、声優・音声制作を手がける会社さんともオンラインで話す機会をいただきました。当社はVTuberやYouTuber向けのキャラクター制作も行っており、声優さんとのコラボが必要な案件も少なくありません。今後は案件に応じて協力していけたらと考えています。

田中由一代表(左)と、田中代表が信頼をおく滋賀中央信用金庫の野村氏(右)
LEDファン日本一へ。AIの活用とBtoC戦略で描く次の10年
─ 今後の展望を聞かせてください。
いちばんの目標は、LEDファンの分野で日本一の会社になることです。技術面の条件は揃ってきました。あとはプロモーションをどう展開するかにかかっています。いまはBtoB中心ですが、BtoCへの展開も進めています。
おもしろい取り組みのひとつが、彦根市公認キャラクター「ひこにゃん」の3D化です。これまで、ひこにゃんは2Dのみの展開でしたが、3D化の許可をいただいているのはおそらく当社だけではないでしょうか。LEDファンの中に浮かび上がる3Dのひこにゃんは、観光土産やノベルティとして展開できないかと構想しています。もちろん、これからますます大手企業の最前線のプロジェクトにも積極的に参画していきたいですね。

滋賀県彦根市のキャラクター・ひこにゃんを3D化
様々な3Dホログラムの様子は田中印刷所Youtubeへ!https://www.youtube.com/@tanakaprint
そして、もうひとつのテーマがAIの活用です。3DCGコンテンツ制作にAIを組み合わせることで、人を増やさずにアウトプットの質と量を上げていく。当社は幸いにも人がすべての工程を行わなくても、プロンプトを使いこなせれば生産できる業種ですので、AIはとても相性がいいと思っています。
私自身は、今年73歳を迎え、そろそろ事業承継も視野に入れなければならない年齢です。ただ、東京にいなくてもウェブとデジタル技術があれば全国の仕事ができるという可能性は証明することができました。AIを活用し、デジタルサイネージ事業をさらに強化し、地方にいながら日本一を目指す──それが田中印刷所の次の10年です。

「これからはAIの活用が欠かせない」と語る田中代表
<会社情報>
| 有限会社田中印刷所 | |
|---|---|
| 所在地 | 滋賀県彦根市小泉町1042-1 |
| 設立 | 1954年10月 |
| URL | |
| ※情報と肩書きは取材当時のもの。 | |


