2026年05月11日

経営数字、良いの?悪いの?
ウサギの絵から見えてくる、5期比較の極意

数字が苦手な人はたくさんいます。
例えば月次の報告書。数字を見て「良いのか悪いのか、よくわからない」「どこを見ればいいかわからない」。公認会計士・斎藤先生の連載5回目は、そんな人にもわかる、数字の見方をご紹介。

「実は数字は単独では何も語らない」。間違い探しのように過去と比べることで、初めて会社の本当の姿が見えてくる。可愛らしい「ウサギの絵」を使った比較の極意とは?数字が苦手な経営者でも明日から実践できる「5期比較」の読み解き方を伺いました。

*前回の「棚卸し改革は、経営者の「決断」から始まる”どんぐり”だけ数えればいい!数えない勇気が現場を救う」では棚卸しの基本について伺っています。こちらもぜひチェックしてみてください!
執筆者:斎藤 勇樹氏
公認会計士・斎藤勇樹公認会計士事務所 代表

準大手監査法人で売上規模10億円から1,000億円まで幅広い企業の監査・支援業務に従事した後、2025年2月に独立。現在は、これまでの知見を活かした会計・ビジネスコラムの執筆や、大学での講義・公認会計士協会の各種委員会活動など多岐にわたって活動している。私生活では「妻と子供たちの幸せ」を第一の判断基準とし、男性長期育児休業(長男6か月間、次男7か月間)を取得。

インタビュー記事はこちら

中小企業経営者の皆様、こんにちは。公認会計士の斎藤です。

突然ですが、皆様は「間違い探し」や「謎解き」はお好きでしょうか?今日は、ちょっとした謎解き気分で、会社の数字の読み方についてお話ししたいと思います。テーマは「比較」です。

数字というものは、単独では無口ですが、仲間(過去の数字)と並べると急におしゃべりになります。その様子を、可愛らしい「ウサギの絵」を使って解説していきましょう。

このコラムを読み終える頃には、皆様のデスクに並ぶ試算表が、今までとは違った見え方をしているはずです。

【1】  1匹のウサギの絵と2匹のウサギの絵があるとき
~点と線で見ることの限界~

まずは、1枚のイラストをご想像ください。

さて、ここでクイズです。 「このウサギは、子どもでしょうか? 大人でしょうか?」

……いかがでしょう。わかりませんよね? ただ座っているウサギを見て、年齢を当てるのは超能力者でもない限り不可能です。

では、情報を増やして、もう1枚のウサギの絵を見てみましょう。

2匹になりました。少し想像が膨らみますね。「大きさが違うから親子かな?」と仮説が立てられます。比較対象ができたことで、情報量がグッと増えました。

実は、皆様が毎月見ている「月次試算表」や、年に一度の「決算書」も、これと同じことが言えるのです。

例えば、今期の損益計算書(P/L)に、こんな数字があったとします。

・売上高:1億円
・営業利益:500万円

この数字だけを見て、良いのか悪いのか。答えは「わからない」が正解です。点でしかない情報には、良し悪しを判断するモノサシが存在しないのです。

では、前期と比較してみましょう。多くの経営者様がこのステップを踏みます。いわゆる「前期比較」です。

・前期:売上 8,000万円 / 利益 100万円
・当期:売上 1億円   / 利益 500万円

こうやって並べると、「おっ! 前期に比べて売上が2,000万円も増えている!利益は5倍だ!わが社は絶好調だ!」と見えます。 前年比125%の成長。銀行員も褒めてくれるかもしれません。

しかし、公認会計士としての私は、ここで少し眉をひそめます。 なぜなら、「2期比較」には大きな落とし穴があるからです。

もし、「前期」にコロナ禍のような予期せぬ事態が起き、「特別苦しい年」だったとしたらどうでしょう? あるいは、「当期」にたまたま大口の特需が舞い込んだだけかもしれません。     

2匹のウサギの絵で言えば、たまたま片方がジャンプしている瞬間を「背が高いウサギだ」と判断するようなもの。2期だけの比較では、その増減が「実力」なのか、単なる「リバウンド(反動)」なのかが見抜けないのです。

だから、私が最低限お願いしたいのが「3期比較」です。

【2】3匹のウサギの絵があるとき
~トレンドが見え、V字回復の真実を知る~

では、もう1枚のウサギの絵を見てみましょう。

3匹になりました。これならわかりますね! 「ああ、これはウサギの家族だ!」

パパとママがいて、赤ちゃんがいる。単なる個体差ではなく、そこには明確な「関係性」と「順序」が見えてきます。

ビジネスにおいて、私が最低限お願いしたいのが、この「3期比較」です。

3つの点があれば、それが直線なのか、曲線なのか、あるいは一時的な異常値なのか、「傾向(トレンド)」をつかむことができます。

先ほどの「絶好調に見えた会社」を、3期分並べてみましょう。驚きの事実が見えてきます。

・2年前:売上 1億2,000万円 / 利益 800万円
・1年前:売上 8,000万円   /  利益 100万円(※何らかのトラブルで激減)
・当期  :売上 1億円    /   利益 500万円

いかがでしょうか。 2期比較では「成長している!」と喜んでいましたが、3期並べてみると、「あれ? まだ一昨年の水準(1億2,000万円)には戻っていないぞ」という事実に気づきます。

これは「成長」ではなく、「V字回復の途中」です。 1年前という「特別な底」と比較して安心していただけで、本来の実力値である2年前と比べると、まだ2,000万円のマイナスなのです。

3期分のウサギを見ることで、「赤ちゃん(1年前)よりは大きいけれど、パパ(2年前)にはまだ勝てていない」という立ち位置が理解できるのです。

【3】5匹のウサギの絵があるとき
~物語(ストーリー)と体質の変化を読む~

さて、ここからが上級編であり、経営者としての「眼」が最も輝くフェーズです。 5匹のウサギの絵を見てみましょう。

パパ、ママ、お兄ちゃん、お姉ちゃん、そして赤ちゃん。 さらに背景には季節の移ろいが描かれています。ここまでくると、単なる家族構成だけでなく、「ウサギたちの物語」が見えてきませんか?

「お兄ちゃんウサギ、最近ちょっと太ってきたな(健康状態)」
「冬の時期はみんな毛がふさふさしているな(季節変動)」
「毎年、新しい家族が増えているな(成長の歴史)」

5期比較を行うということは、企業の「体質変化」と「長期的な物語」を読み解くことです。

上場企業が作成する「有価証券報告書」という分厚い報告書でも、冒頭のサマリ情報は必ず「5年分」の推移を載せるルールになっています。プロの投資家は、5年見ないと会社の本当の姿(体質)はわからないと知っているからです。

中小企業においても、5期比較は強力な武器になります。 特に注目すべきは、売上などの派手な数字ではなく、「比率」の中に隠れた病気です。

具体的な数字の推移を見てみましょう。少し怖い物語が見えてきます。

先ほどの『最近少し太ってきたお兄ちゃんウサギ』のように、会社の費用も年々膨張していないかを確認しましょう。

まず、売上高の推移を見てみます。 4年前は8,000万円でした。そこから8,500万円、9,000万円、9,500万円と増え、当期はついに1億円に到達しています。「我が社は順調に成長している!」と胸を張りたくなる数字です。

しかし、ここで原価率(売上に対する原価の割合)の変化に目を凝らしてください。

・4年前 : 62.5%
・3年前 : 64.0%
・2年前 : 65.5%
・1年前 : 67.0%
・当期   : 68.5%

じわり、じわりと上がっています。5年間で6%も悪化しています。 これは、仕入価格の高騰を売価に転嫁できていないのか、あるいは現場のロスが増えているのか。

売上が増えている影で、「稼ぐ効率」という会社の基礎体力が、5年かけて徐々に蝕まれているという「物語」が見えてきます。

これは、単年度や2期の比較では「誤差かな?」「今年はたまたまかな?」と見過ごされがちな変化です。 5匹の絵を見ることで初めて、「あれ? うちのウサギ、毎年少しずつメタボになっていないか?」という健康状態の悪化に気づくことができるのです。

【明日からできること】
~魔法の資料をオーダーしよう~

「5期分の分析なんて、難しそうだ」 そう思われたかもしれません。でも、ご安心ください。皆様が電卓を叩く必要は一切ありません。

明日、会社の経理担当の方、あるいは顧問税理士に、一言だけこう伝えてください。

「今月の試算表の横に、過去4期分の数字を並べた『5期推移表』を付けてくれないか?」
「その際、『原価率や利益率などのパーセンテージも併記してほしい』と付け加えてみてください」

たったこれだけです。 今の会計ソフトなら、ボタン1つで「3期比較」や「5期推移表」を出力できる機能がついているものがほとんどです。Excelでパパっと加工してもらうのも良いでしょう。

そして、その表が出てきたら、難しい分析は不要です。 ただ、5枚のウサギの絵を眺めるように、左から右へ数字を眺めてください。

「おや、接待交際費が毎年少しずつ増えているな?」
「売上はデコボコしているけど、利益は着実に増えているな。」
「3年前のあの設備投資が、今になって利益に貢献し始めたな。」

そんな「会社の物語」が、数字の向こうから浮かび上がってくるはずです。 数字は、ただの結果ではありません。比較し、並べることで初めて、雄弁に過去と未来を語り始めます。

さあ、あなたの会社のウサギたちは、今、どんな物語を語ってくれるでしょうか? ぜひ、5匹のウサギの絵を見て、その声に耳を傾けてみてください。

さて、今回はウサギさんたちから「数字を並べて比べる」ことの大切さを学びました。まずは明日、経理担当の方や税理士さんに「5期推移表をください」と伝えてみてはいかがでしょうか?数字が語り出す「会社の物語」、きっと新しい発見があるはずです。次回もお楽しみに!

<会社情報>

斎藤勇樹公認会計士事務所
所在地 神奈川県川崎市幸区
設立 2025年2月
URL

https://www.big-advance.site/c/157/2891

※情報と肩書は取材当時のもの
※一部画像を、Google Geminiで生成しています。
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