2025年10月14日

「自分も大切に」公認会計士でも長期育児休業を取得
家族のための独立で目指すIPO支援とは

「パパが隣にいない」。長男の一言が、朝5時から働く激務の会計士を変えました。

朝5時からの仕事と保育園の送り迎えに走り回る日々。ある朝、布団から出てきた長男の「パパが隣にいない」という一言が、準大手監査法人で激務をこなしていた斎藤氏に働き方の見直しを決断させました。当時、業界では極めて異例の男性長期育児休業の取得。その後、家庭の事情が重なり、思いがけない形で独立開業へと踏み出しました。

「ピンチをチャンスに変えよう」と2025年2月に立ち上げた個人事務所で、「IPO企業に無駄なお金を使わせない」という新たな挑戦に取り組んでいます。子供たちの遊ぶ公園でスマホを操作しながらホームページを作成するなど、「自分も大切に」という育児で得た気づきを事業に活かす斎藤氏の、自分らしい働き方と独立への想いを伺いました。

斎藤勇樹公認会計士事務所 代表 斎藤 勇樹 様

ご近所とのトラブルがきっかけで独立開業を決意

─個人事務所設立の経緯について教えてください。

2025年2月に個人事務所を立ち上げたきっかけは、率直に収入増が必要だったからですね。以前の住居で足音が原因でご近所の方とトラブルになってしまったので、引っ越しを余儀なくされました。その際、前に住んでいた場所を事務所として利用することにしたので、二重になる住居費を賄う必要が生じたんです。

どこに時間と労力をかけるかと考えたとき、「子供たちを巻き込みながら、トラブルと付き合うくらいなら、さっさと逃げて、チャレンジして収入を増やしたほうが前向きだな。逃げれば良いじゃん(笑)」と思いました。元々の性格なんでしょうが、あまり悩まなかったですね。

こうして、思いがけない独立開業となりましたが、「ピンチをチャンスに変えよう」と決意し、個人の仕事をしっかり広げていくことを決めました。もともと3〜4年前から以前の職場で非常勤勤務になっていて、「いつかは動かなければ」という意識があったことも大きかったです。

─非常勤契約に変更された背景はどのようなものでしたか?

当時、この業界は毎日残業が当たり前の超激務でした。30代半ばでしたが、心身ともに本当に疲れていました。さらに、妻が2人目を産んだ後にかなり体調を崩してしまい、入退院を繰り返す状況になりました。

私1人で子供2人を見ながら仕事をしていましたが、保育園への迎えもあるため定時まで働くのが精一杯の状態でした。朝5時頃から働くことでなんとかカバーしていたのですが、長男が起きてきて「パパが隣にいない」と言ったときに、この働き方は無理だなと思って非常勤勤務になったんです。長男が4、5歳の頃で、まだまだ目が離せない時期でしたからね。

現在は妻の体調も回復し、私も仕事を少し増やしていこうと思い、今に至ります。

準大手監査法人で6ヶ月間の育児休業を取得

─長期で育児休業を取得されたということですが、そのきっかけは?

妻の体調への不安もありましたが、それ以上に、私が子供好きだったことと、「人がやらないことを積極的にやってみたい」という気持ちが大きかったです。育児を楽しみたい気持ちもあり、1人目の時には6ヶ月、2人目の時には7ヶ月の育児休業を取得しました。

─当時は男性で育児休業を取るのは珍しかったのではないでしょうか?

当時は、男性育休の制度自体がほぼない上に、男性が育休を取ることに積極的ではない時代でした。私もインチャージ(現場責任者)というチーム内のリーダーポジションだったので、会社としても『私が抜けると困る』というのは理解できました。

育児休業の制度をよく調べて、月10日までなら休業中に働いてもいいということが分かったので、この制度を利用することにしたんです。月10日以内で数社のクライアントを受け持って、残りの業務はチームメンバーに任せるという形で育休期間を楽しみながら乗り切りました。

─育児休業を通じて得られた気づきはありますか?

「自分のことも大切にしなさい」ということですね。これが一番大きな気づきです。

子供を大切にするのは当然のことですが、実際の育児は本当に大変で、「自分もこうして育ってきたのか」と改めて思うんですよ。その中で自分のことだって投げやりにしていいわけじゃない、自分のことも大切にしなければならないということが、親の立場になってようやく分かりました。

私が育児休業を取り大きな気づきを得ることができたので、後輩たちにも「君も絶対に取った方がいいよ」と積極的に伝えています。実際に育児休業に興味を持つ人たちも出てきて、良い循環ができてきたと感じています。

唯一後悔しているのは、育児休業を1年取ってもよかったと思っていることです。半年にしてしまったのはもったいなかったなと思っています。

IPO支援で「無駄なお金を使わせない」サービスを

─現在の事業の軸について教えてください。

私はIPO(新規上場株式)を目標とするクライアントをいくつか担当しているのですが、IPOを目指す会社は、上場申請に必要な直前2年分の財務諸表について、監査法人による監査を受ける必要があります。また、上場会社に求められる管理体制の構築、内部統制の整備が必要となります。当然これらの準備は監査法人の助言・指導を受けながら進めます。

IPOを目指す会社は、一般的に上場申請を行う期から逆算して3年以上の準備期間が必要です。長いようにも思えますが、「数十億円の資金を獲得するに値する会社を作る」わけですから大変です。

お金を借りるのではなく、お金を貰うんですから大変に決まっています。

一方で、いざ3年後に上場したい会社を見ると、「今の状態から3年で合格点を出せる水準に辿り着けるかな?もっと時間がかかりそうだぞ」「監査法人に来てもらうのはもう少し土台ができてからの方が良さそうだな」と思うことが多いです。準備期間と合格ラインにギャップがあるようなイメージです。

IPOを目指す企業が10社あっても、実際は1社くらいしか上場には至りません。他の9社はうまくいかない上に、監査法人に年間1000〜2000万円ほどの監査報酬を払うことになり、それが4年、5年、6年と続くと1億円近いお金が無駄になってしまうことになります。

「無駄になる監査報酬があるなら別のことに投資した方がいいよね」と、ずっと思っていました。IPOを目指す企業に無駄なコストを発生させず、成功をサポートしたいというのが、私の考えている事業の軸です。

監査法人がIPOを検討している会社に対して、上場に向けた課題を確認するために行う事前調査のことを「ショートレビュー」というのですが、そのさらに前段階の「プレショートレビュー」を提供できないかな?と考えています。これは、監査法人でショートレビューを行う前の地ならし的な支援であり、IPO準備に関する長期化とコストのリスクを低減することを目的としています。

数時間あれば改善できる部分も実はたくさんありますし、2〜3年かけて私が伴走してプレショートレビューの「卒業」を目指し、スムーズなショートレビューや監査法人への橋渡しになれるようにします。そうすることで会社はかかるコストも時間も大幅に削減できると考えています。

業界をまたいで見えた強い企業の共通点

─多くの企業の監査をされてきた中で、強い企業に共通する特徴はありますか?

儲けるだけだったらチャンスは世の中にたくさん転がっていますが、そこに飛び付かずに「自分たちはこういう会社なんだ」「こういうお客さんのために仕事をしたいんだよ」という軸が決してぶれない会社が本当に強いと感じています。

また、伸びている会社は5〜6年先を見据えた計画を立てています。そしてストップ&ゴー(停止と前進)がしっかりしていることも重要です。進むと決めた時の力強さは圧倒的です。逆に、時代の流れで「まずいな」と感じた時に、私たちが思っているよりも、もう一段階早く止まる印象があります。

加えて組織の内部にちゃんと批判的な人間がいることも大切です。監査等委員会や監査役など、絶対的なイエスマンではない人を入れている。意見がぶつかる事がわかっていても、「本当に必要だ」と思って、あえて組織に加えているのだろう、ということがよく分かります。

─その気づきをご自身の事業にも活かされているのですね。

はい、その通りです。私自身も、企業と同じように強みややりたいことがぶれないようにするのが一番大切だと思っています。例えば、いいお客さんが見つかったからといって、家族を放っておいて毎晩飲み歩いたりするのは自分らしくないですから。

これからは、相手企業と私、双方のニーズに合ったサービスを提供していくことに注力していきます。具体的には、短い時間で会社の改善の起点になってあげられるようなサービスです。それを心から欲していて、価値があると思ってくれるお客さんにちゃんと巡り合うというのが、これからの一番の目標です。

公園でスマホ操作、Big Advanceでサクサクホームページ作成

─Big Advance導入の経緯と、ホームページを作成された体験はいかがでしたか?

独立後、川崎信用金庫の方に相談したところ、中小企業診断士の方を紹介してもらえました。その方から「ホームページを作りなさい」「名前を売りなさい」というアドバイスをもらったんです。そこで紹介されたのがBig Advanceでした。

実は公園でホームページを作ったんですよ。隣で子供が遊んでいるのを見ながら、スマホで作ったのが今のホームページです。

月額3,300円でとにかくサクッと、必要な項目もAIのサポートでパパッと入れてくれるので、時間がない中ではすごくありがたかったですね。私の環境にすごくマッチしていました。

1人でやっていると初めてのことだらけなんですよね。ずっと監査法人の守られた環境で働いていたこともあり、やっぱり金融機関という公共性の高い組織が関わってくれるというのは安心感が大きいです。

大海原で「自由に生きなさい」と放置されても何もできないので、「ここでやってきなさい」という限られた枠の方が、私には取っつきやすいんですよ。

マッチング機能についても、自分にどういうニーズがあるのかまずは試してみようと思っていくつか登録しています。下手でもとにかく書いてみる、やってみるという使い方の方がこのツールには合っていると思って、思いついたらポンポン書いてみるようにしています。

こうして新しいことに挑戦できるのも、家族という支えがあってこそだと実感しています。

妻は救いの女神、子供達は救いの天使

─家庭と仕事の両立、そして独立という大きな決断をされてきましたが、これまでの人生で転機となった出会いはありますか?

妻との出会いが一番大きな転機でした。妻と出会って子供がいなかったら、私は多分死んでるか精神病になっていたかと思うんですよ。この業界は本当に激務で、同僚でも心を壊してしまった人がいっぱいいるので。

「妻がいるから」「子供達がいるから」と立ち止まる理由がなければ、私はきっと、あのまま激務を続けていたと思います。私にとって妻は救いの女神であり、子供達は救いの天使だと思っています。

家事育児が仕事のアイデア源に~相乗効果で生まれる価値

─今後の事業展望について教えてください。

今後も、自分の強みや、やりたいことがぶれないようにするのが一番大きいかなと思います。仕事上の経験だけではなく、家庭環境なども含めた全てが私の強みになっているので、大切なことを見失わないようにしていきたいです。

また、家事育児をする中で気づきやアイデアが出てくることもあって、仕事以外の時間が仕事に役立つという相乗効果があるんだなと感じています。

「自分も大切にしなさい」という育児休業で得た気づきを胸に、家庭と仕事の経験を融合させ、本当に価値のあるサービスを提供していきたいと思います。

<会社情報>

斎藤勇樹公認会計士事務所
所在地神奈川県川崎市幸区
設立2025年2月
URL

https://www.big-advance.site/c/157/2891

※情報と肩書は取材当時のもの
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