「町工場の技術を宇宙へ」
蒲郡製作所が描く精密微細加工の新たな地平
愛知県蒲郡市に拠点をおく株式会社蒲郡製作所。社員12名の少数精鋭集団でありながら、扱う分野や取引先は実に幅広く、JAXAやNASA、東京大学、そしてGoogleなど世界最高峰の研究機関や企業とも関わりを持ち、ともにプロジェクトを推進しています。1954年の創業以来、同社が磨き続けてきたのは「精密部品加工」や「微細部品加工」の圧倒的な技術力です。半導体や航空機で用いられる部品をはじめ、宇宙・ロボット・医療機器といった最先端分野にも携わり、大手企業からの依頼を受け、試作・特注品も手がけています。「余所で断られた難題こそ、私たちの出番」と笑顔で語る二代目代表の伊藤智啓氏。「社会が求める時代の芽を形にする」という経営理念のもと、技術と発信力を武器にしながら、チャレンジを続ける同社の取り組みを伺いました。
株式会社蒲郡製作所 代表取締役/技術士補(金属部門) 伊藤 智啓 様
精密加工のスペシャリストとして、時代の最先端を支える
─まず御社の事業内容とこれまでの歩みについて教えてください。
当社は私の父が1954年に創業し、今期で72期目を迎えます。私自身は二代目になりますが、社歴こそ長いものの、常に新しいことに挑戦し続けてきた歴史でもあります。現在は社員12名という体制で、精密機械器具の部品の製造を行っています。
得意とするのは、非常に少量の、かつ難易度の高い部品を形にすることです。一つひとつの仕様が異なる試作品や、メーカーの工場で使われる製品づくりの補助をする治具(ジグ)、あるいは検査用の固定器具といったものまで。数個から数百個という少数のオーダーにも対応しています。
実は、自動車産業の盛んな愛知県にありながら、現在は自動車関連の仕事はほぼ受けていません。かつては月に1万個、2万個といった量産品も扱っていましたが、より付加価値の高い仕事に集中するため、先代のときに思い切って舵を切りました。当時はOA機器、複合機やプリンターが大きく伸びる成長分野でしたので、その業界をメインの発注先として仕事を引き受けていました。
その後、私がホームページを通じていろいろな分野の企業の方と知り合うようになり、2000年頃からでしょうか。半導体の検査装置や製造装置、関連機器の部品の製造を取り扱うようになりました。さらに今では、ボーイングの航空機の部品、燃料電池、光通信、宇宙関連では人工衛星や電波望遠鏡、ロボット、医療機器といった先端分野にも携わるようになり、多品種少量生産へとシフトしていきました。

蒲郡製作所の「超精密サプライズ加工」から生み出される部品の数々
─「宇宙」や「ロボット」という先端分野とはすごいですね! どのように参入されたのでしょうか?
私たちが目指しているのは、世界中のお客様から「蒲郡製作所にしか頼めない」「あなたにつくってほしい」と信頼されて必要とされる存在になることです。先ほど申し上げたように、少量かつ難易度の高い部品づくりを引き受け、クライアント企業様の思いに応えていく。一つひとつの仕事を通じて得た信頼関係やご縁からお声をかけていただき、数々のプロジェクトや最先端の研究開発に参加させていただくようになりました。
一例が、南米チリの標高5000メートルに設置されている「アルマ望遠鏡」です。これは日本とアメリカ、ヨーロッパの共同プロジェクトなんですが、約80基ある巨大アンテナに使われる「ミラーブロック」という部品を当社で製作しています。この部品は、単に削るだけでは不十分で、材料の内部に潜む「歪み」を計算しながら、20工程以上の複雑な加工を重ねていかなければなりません。最終的な精度はプラスマイナス20ミクロン以内に収めるという非常に高い精度を求められる部品なんですね。
2017年、約9年ほど前ですが、世界中の電波望遠鏡をつなげて、アルマ望遠鏡が主体となり、ブラックホールの撮影に初めて成功したことは、当時、非常に話題になりました。
このほかにも、JAXAが製造した全長13メートルほどある人工衛星に搭載されたX線望遠鏡の部品や、愛知工科大学の先生にご指導いただいて一辺100ミリという小さな人工衛星を製作しました。最近では、2023年にXRISM(クリズム)というX線分光撮像衛星の部品の製作も手がけ、このときの仕事が評価され、JAXAから感謝状もいただきました。すごくうれしかったのを覚えています。
また、ロボット分野では、東京大学の人型ロボット研究を20年近くお手伝いしています。今は継続してはいませんが、以前はGoogleが手がけていた二足歩行ロボットの開発にも携わりました。
こうしたさまざまなプロジェクトに私たちが関われるようになったのも、「どんな難しい加工でもまずはやってみよう!」というチャレンジ精神で向き合ってきたからだと思います。社員一丸となってチャレンジ精神を大事にし、一緒に学んで少しずつ成長していくことで、最終的にみんなが幸せになれる企業を目指しています。

XRISMという人工衛星の部品製造を担当し、JAXAから贈られた感謝状
自社の強みを打ち出し、お困りごとに応える。それが必勝パターン
─伊藤社長は「情報発信」にも注力されていますね。きっかけを教えてください。
1998年に当時の通産省(現在の経済産業省)がつくったエレクトリックコマース、今でいうネットの実証実験サイトに参加したのが始まりです。今のようなきれいな三次元ではありませんが、立体的な空間の中にいろいろな店舗が並び、広場や庭園などを、アバターという自分のキャラクターを選んで行き来して遊べるという自由なサイトでした。全国で1000人くらいのメンバーがいて、メンバー同士のチャットがとても楽しくて……。いちばん熱中していた頃は、朝、起きてから出勤までの時間、そして帰宅後から寝るまでの時間と空き時間を見つけてはチャットに没頭。おかげで全国に多くの友人ができましたし、画面の向こう側と情報や物を交換できるおもしろさを感じて「これは仕事にも活かせる」と思いました。
そして父の助言もあり会社のホームページを作成。立ち上げてから最初の1〜2年は、1社も問い合わせがなかったのですが、九州にある電機系の大手企業様から問い合わせをいただき、取引が始まったことをきっかけとしていろいろな上場企業からも「お困り案件」の問い合わせをいただくようになりました。「協力先20社のどこもできなかったけれど、御社でできませんか?」と。
そうした課題をクリアするたびに、取引は順々に拡大していくものなんですよね。ひとつ特徴のあるものづくりができる、よそでできないこともできる。すると、ご縁が広がっていく。これが当社の勝ちパターンとなったように思います。
─宇宙ビジネスの始まりもまさに情報発信から?
はい、そうです。20年前、まだ「SNS」という言葉もなかった頃から、私はほぼ毎日ブログを書いていました。単に日記を書くのではなく、毎回ある「願い」を署名欄に添えていたんです。
「いつかNASAと仕事がしたい。蒲郡製作所 伊藤智啓」
ブログでの発信を始めた翌々年のことでしょうか、たまたまお付き合いのあった大学の先生から連絡があり、「今度、NASAで打ち上げる人工衛星の部品を設計している」とご依頼をいただいて。それが、最初の宇宙ビジネスとの関わりになります。
「思いを言語化して外に発信する」ことで、目的を同じくする人や、本当に困っている人とつながることができます。自分たちの強みを磨き、発信していく。町工場の未来を拓くには欠かせないことではないでしょうか。
─「Big Advance」のプラットフォームについて、印象はいかがでしょう?
まだ活用しきれてはいませんが、さまざまな可能性を感じていますね。私たちはこれまで自社のホームページやブログといった「自前の発信」をメインにしてきましたが、Big Advanceのような信頼性の高いプラットフォームは、その「入り口」をさらに広げてくれる存在だと思います。
最近はオンラインでの出会いだけではなく、直接、顔を合わせる「フェイス トゥ フェイス」の場もとても重要だと考えています。コロナ禍で会えない時期もありましたから、この3〜4年間は対面での出会いを重視し、ほぼ毎月どこかの展示会に参加するようにしていますが、Big Advanceにはこうしたリアルな商談会もあると知りました。これはぜひ活用していきたいですね。

自分たちの強みを発信することの大切さを語る伊藤代表
これからも変化を恐れず、突き進んでいく
─最後に、これからの展望について教えてください。
当社はこれからも、精密部品加工という技術を軸にあらゆる業界の「お困りごとの解決」に挑戦し続けます。近年、特に力を入れているのが医療分野です。たとえば、人工心肺装置の心臓部やカテーテルの先端部品など、人の命に直接関わるようなものづくりは、非常にやりがいを感じますね。「蒲郡製作所に頼めば、どんな課題でも何とかしてくれる」。そう言っていただけるような信頼関係を大切にしていきたい。
ダーウィンの進化論にある、私の好きな言葉のひとつです。
「最も強いものが生き残るわけではなく、最も賢いものが生き延びるのでもない。変化できるものが唯一生き永らえる」
新しい技術の開発はもとより、受託生産だけでなく、何か自分たちでつくって売っていくこともこの先は視野に入れて、進化し続けたいと思っています。
<会社情報>
| 株式会社蒲郡製作所 | |
|---|---|
| 所在地 | 愛知県蒲郡市御幸町28-10 |
| 設立 | 1954年7月 |
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| 情報と肩書は取材当時のもの | |


