青果の魅力を広めるカフェ運営
立川で地域とともに歩む株式会社根津の挑戦

立川の地で創業して70年、老舗の青果卸業を営む株式会社根津。青果の魅力をより多くの人に伝えるため、2016年に立川でカフェをオープン、2024年8月には2店舗目となる東大和店をオープンしました。看板商品は自慢のアップルパイです。多摩地域で新たな取り組みに挑戦する三代目の根津氏にお話を伺いました。
株式会社 根津 統括マネージャー 根津 祐太郎 様
創業70年の青果卸業者が創る 地域に寄り添う憩いのカフェ
ー会社の事業内容について教えてください
私たちの会社は、祖父の代から青果卸業を営んできました。長野県の信州林から生花を仕入れ、東京で八百屋を営んでいたのが始まりです。現在は、飲食店や学校給食向けに果物や野菜を卸すほか、2016年からカフェ事業を展開し、9年目を迎えています。
ーカフェを立ち上げたきっかけは何だったのでしょうか?
当社は、先代の代表が長野県信州りんごを東京にて販売したとろから始まりました。「美味しい素材を直接お客様にお届けする」という想いのもと、青果を卸していましたが、原材料になる青果のお届けだけでは果物や野菜の魅力を十分に伝えきれないと感じていました。お客様から「この野菜はどう調理すればいいですか?」と聞かれることが多く、もっと直接的に魅力を伝えられる方法を模索していました。そんな中、父が「カフェをやりたい」と言い出したんです。それがきっかけで、私もその当時勤めていた会社の営業職から転向し、飲食業の基礎を学びながら開業に至りました。
ー立ち上げ当初はどんな苦労がありましたか?
何もかもゼロからのスタートでした。調理経験もなければ、管理職の経験も面接の経験もなし。看板商品のアップルパイは何度も試作を重ね、カフェ経営も組織・仕組み作りから試行錯誤しながら進めました。まだ立川の駅前も再開発が始まった頃で、立地的に集客も難しく、当初の売上は厳しい状況でしたね。立ち上げ当初は「美味しければ売れる」と考えていましたが、実際にはお客様の需要とのズレがあったんです。アップルパイを四角くて茶色い形状で提供してみましたが、見た目のインパクトが強すぎて、お客様の一般的なアップルパイのイメージと一致せず、「地面みたい」と言われあまり良い評価を得られませんでした。
立地的にもお店の認知度が低く、当時は特にSNSも活用できていなかったため、宣伝活動が不十分でしたが、そんな折にたまたま「アド街ック天国」の取材が入ったんです。テレビ放送後に一気に認知度が向上したことで、プロモーションをしっかり行い、商品の魅力を伝えることが売上に直結するということを学びました。
そこで、市場のニーズに応じたマーケットインという考え方を取り入れ、商品の魅力を適切に伝える方法を模索し始めました。
例えば、親子連れのニーズを捉え、「落ち着いて食事できるカフェ」として利用できるよう、キッズスペースを設置したり、アップルパイの品種ごとの違いや、農家との直接取引の背景などを伝えることで、お客様に「ここでしか買えない特別な商品」という印象を持ってもらうことを意識しました。
単なる商品販売ではなくお客様のライフスタイルに寄り添うこと。モノ売りではなく、ストーリー売りという視点を重視してマーケティングにも力を入れるようになりました。
ーお店の特徴として、キッズスペースを設けているのもユニークですね。
そうですね。当時、立川周辺には子連れでゆっくり食事ができる場所が少なかったので、創業当初からキッズスペースを設置していました。親子連れでも安心して過ごせる空間を作ることで、より多くの人に楽しんでもらいたいと思っています。

立川駅北口より徒歩7分の立地に構えるカフェ_Adam’s awesome PIE(アダムスオーサムパイ)
物価高騰に負けない価値を生み出す
ー現在、業界全体で感じている課題はありますか?
一番の課題は、昨今の原価やエネルギー費の高騰をどう乗り切るか、という点ではないでしょうか。例えば、キャベツの価格が上がると、飲食業全体でコスト負担増の問題が発生します。また、運送費も高騰し、価格転嫁の難しさを痛感しています。そういった課題を乗り越えるためにも他者との差別化を図り、企業の個性やストーリーをしっかり伝えることが重要だと考えています。例えば、当店のアップルパイは品種ごとにレシピを変え、りんご本来の特徴を活かした商品作りをしています。お客様に「この品種のりんごがいい」と選んでいただけるように、品種ごとの価値を高めていくことを目指しています。
縁を大事にしたい つながりが次のビジネスチャンスのきっかけに
ー「Big Advance」を導入された理由を教えてください。
もともと多摩信用金庫様のマッチングサービスに参加していて、そこで得た繋がりがとても有意義でした。「Big Advance」はその延長線上で導入を決めました。特に、ビジネスマッチングやセミナーをよく活用していて、週に一度は新しい企業との接点を探しています。
ー 具体的にどのような成果がありましたか?
大手の企業様と繋がることができて、青果の取り扱いの事業で商談を進めています。アップルパイの販売先も商談相手は見つかりましたが、味や品質を落とさない長期保存(冷凍技術)の方法や、量産技術の限界も課題であると気づきました。将来的にセントラルキッチンを導入するなど製造面での課題を解決できれば改めて挑戦しようと思っています。
ービジネスマッチングで新たなつながりが生まれたんですね。これまでの中で、根津様にとって印象的な出会いなどがあれば教えてください
私たちのカフェを出店させてもらっているビルのオーナーさんとの出会いですね。
この方が自分を認めてくれたので、今の場所があって続けていけたのかなと思っています。
もともと第一デパート(現在は閉店している立川のデパート)に八百屋として構えていた頃に、同じテナントに入っていた企業様として知り合いました。その企業様がその後成功して自社ビルを構えていたんです。長く連絡を取ってはいませんでしたが、そのビルにぜひ出店させて欲しいと手紙を書いて相談したところ、新事業のカフェを認めてもらえて、転機になりました。
Big Advanceでの出会いもそうですが、一度接点を持った企業様と良い商談ができれば私たちのことを覚えてくれるので、次のビジネスチャンスに必ず繋がると考えています。
幅広い人に楽しんでもらえる面白い取り組みを考えたい
ー今後の展望について教えてください。
多摩地域で大量仕入れが可能な病院や介護施設との連携も模索しています。立川という街が大好きなので、地域に根ざした活動も考えていて、地元の方々と繋がりを深めたいですね。
また、アップルパイをもっと全国に広げて、幅広い人に楽しんでもらいたいと思っています。例えば、金物メーカーとコラボして、地域ごとに異なる形のアップルパイを作るのも面白いかもしれません。地域の特産品を活かした限定アップルパイなど、他業種と面白い取り組みができないかなと模索しています。
私たちはより多くの方々に青果の魅力を伝え、地元とともに成長していきたいと思っています。
<会社情報>
株式会社 根津 | |
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所在地 | 〒190-0011東京都立川市高松町2丁目7-11 |
URL | |
※情報と肩書は取材当時のもの |