大切な家族を託したい場所、里里(さとり)
効率よりも、一人ひとりの「今」を守る
三重県松坂市にある認知症対応型通所介護施設「里里(さとり)」。代表の岩川氏は、27年にわたる福祉の現場経験、そして実母の介護という「当事者」としての葛藤を経て、2024年に自身の理想を形にした介護施設を立ち上げました。業界の常識や制度の壁に抗いながらも、「来てくれる人に合わせる」という究極の個別ケアを貫いています。その背中を支えるのは、信頼を寄せるプロフェッショナルなスタッフたちと、看板猫の存在です。「よそで働けないほど個性が強いから、自分で始めた」と笑う岩川氏。しかし、その言葉の裏には、認知症ケアに対する並々ならぬ情熱と、利用者への深い慈しみが溢れていました。
SecureBase合同会社 代表 岩川 哲彦 様
「制度の隙間」で立ち尽くす家族を救いたい。27年の歩みが導いた決断
─岩川代表は27年もの間、介護の現場にいたそうですね。
そうですね。最初は障害者施設で約27年、その後は認知症グループホームの施設長として勤めてきました。振り返れば、福祉の仕事一筋ですね。でも、そんな私が自分の事業所を立ち上げようと決意した背景には、仕事としての経験だけでなく、一人の「家族」としての経験が大きく影響しています。
実は数年前、母親の介護が必要になったんです。その時、真っ先に突きつけられたのが「制度の壁」でした。介護保険のサービスを利用したくても、認定の通知が届くまでは動けない。その空白の期間、家族はただ耐えるしかないんです。ずっと「施設職員」として働いてきましたが、いざ家族の立場になって病院や施設と向き合ってみると、「ん?」と違和感を抱く場面が多々ありました。
もちろん各施設にはそれぞれの考え方があり、一生懸命やっているのは分かります。でも、どうしても「施設のルール」に利用者さんを当てはめてしまう部分があり、私のなかで、「もっとこうだったらいいのに」「自分ならこうしたい」という思いが溜まっていきました。
最終的には「自分でやるしかない」という、ある種の勢いもありました。会社を設立したのが2024年10月末で、翌年4月には事業をスタート。準備期間も含め、半年ほどで法人化しました。
100回でも同じ話を聞く、「エンドレス」に寄り添う姿勢
─里里(さとり)の運営方針は、一般的なデイサービスとは大きく異なると伺いました。
当施設は、世間一般のデイサービスが当たり前のようにやっている「レクリエーション」や「一斉の体操」を、一切強制しません。だって、考えてみてください。80歳、90歳、あるいは100歳近い方々が、朝早く起きて準備をし、車に揺られて施設まで来る。それだけで、若い人には想像もできないほどの体力を消耗します。家なら、テレビを見ながらうたた寝をしているはずの時間です。それを、施設のスケジュールだからといって無理やり起こし、「はい、皆さんで歌いましょう」「体操の時間ですよ」とやる。それは本当に、その人のためのケアなのでしょうか?
効率を求めれば、一斉に動いてもらうのが一番楽ですが、私はその考えを捨てました。うちは「来てくれる人に、施設が合わせる」スタイルです。喋りたい方には、納得いくまで喋っていただく。認知症の方は、何度も同じことを繰り返されますが、うちのスタッフはそれを遮りません。たとえ100回同じ話をされても、100回とも初めて聞いたかのように耳を傾ける。私が見ていても「よくここまで根気よく聞けるな」と頭が下がるくらい、エンドレスに寄り添い続けます。
逆に、静かに過ごしたい方や寝ていたい方は、そのままにしておきます。ご自宅のリビングにいるのと変わらない、無理のない時間がここには流れています。

利用者一人ひとりに寄り添うケアを実践している。
─そのような個別対応を可能にするのは、やはり「人」の力でしょうか。
その通りです。当施設はスタッフに恵まれました。現在、私を含めて7名体制で施設を運営しています。管理者を務めてくれているのは、以前の職場で苦楽を共にした信頼できる仲間。他のメンバーは開設に合わせて採用したのですが、私以外の全員が介護福祉士の有資格者で、利用者一人ひとりに丁寧に対応してくれる誠実な人ばかりです。
キャットセラピーがもたらす、人には生み出せない癒やし
─事業所内には猫ちゃんがいると伺いました。
今も私のそばにいるこの子が、うちの「看板猫」です。管理者が保護猫活動をしていたこともあり、縁あって引き取った子なのですが、今や当施設に欠かせない、ナンバーワンのセラピストですね。認知症の方は、時として言葉でのコミュニケーションが難しくなることがあります。スタッフがどれだけ言葉を尽くしても届かない不安や寂しさが、猫が一匹膝の上に乗ったり、目の前を横切ったりするだけで、ふっと解消される瞬間があるんです。
こういうのを「アニマルセラピー」というのでしょうが、狙ってやったというより、自然とそうなった感じです。利用者さんの表情が、猫を見た瞬間にパッと明るくなる。「あら、かわいいわね」「どっから来たの」と、そこから会話が生まれる。人間がいくら頑張っても出せない「癒やしの波長」を、猫は持っています。うちの猫は抱っこがあまり好きではないので、適度な距離感で自由に過ごしていますが、その「自由さ」こそが、利用者さんにとっても解放感に繋がっているのかもしれません。「猫がいるから、今日は施設に行くよ」と楽しみにしてくださる方もいて、本当に連れてきて良かったと思っています。

施設の「看板猫」はナンバーワンのセラピスト。猫の存在が利用者の表情をほころばせる。
ケアマネジャーとの信頼関係。そして「知ってもらう」ことの難しさ
─松阪市内で「認知症対応型」に特化された理由は?
リサーチをしてみると、松阪市には高齢者が多いわりに、認知症に特化したデイサービスが極端に少なかったんです。市の調査資料を見ても「こんなに高齢者がいるのに、これからどうするのだろう」と感じる内容で。その状況をみて、松阪市での開設を決めました。
ただ、蓋を開けてみると集客は簡単ではなく…。病院の先生からも「こういう場所が必要だったんだ」と仰っていただけるのですが、実際に利用に繋がるまでは時間がかかりました。この業界は、利用者さんの窓口となる「ケアマネジャー」さんの存在が非常に大きいのです。彼らにいかに信頼され、選んでもらえるか。毎週のようにチラシを配布していますが、そこは今でも試行錯誤の連続です。
役所は特定の事業所を勧めることはしませんからね。最終的にはケアマネジャーさんと、ご家族との信頼関係です。だからこそ、ホームページやSNSを通じて、私たちの「癖の強さ」というか、こだわりの部分をしっかり発信していきたいと思っています。綺麗なことだけを並べるのではなく、等身大の当施設の姿を知ってもらいたいんです。
Big Advanceが繋ぐ、地元の「縁」と情報発信
─情報発信という点では、ホームページも非常に活発に更新されていますね。
ホームページは、私たちの「顔」ですからね。実は、以前は自分で作ろうかとも思ったのですが、現場をやりながらでは到底時間が足りなかった。そんな時に、金融機関からBig Advanceを紹介いただいたんです。
─導入の決め手は何だったのでしょうか。
開業してすぐは少しでも経費を抑えたかったので、まず、「圧倒的にコストパフォーマンスが良かったこと」に惹かれました。でも、安かろう、悪かろうでは意味がありません。Big Advanceのホームページ作成機能は、私のような専門知識がない人間でも簡単に更新ができるし、それでいて必要な情報がしっかり伝わるのがいいですね。
それから、ビジネスチャット機能。社内規定や重要なお知らせをすべてここに集約して、スタッフがいつでもどこでも確認できるようにしています。福祉業界では情報の周知徹底が義務付けられていますが、スタッフがいつでもルールを確認できる環境を整えたことで、組織運営の効率化と安心感にも繋がっています。単なるITツールではなく、地元の金融機関と繋がっているという安心感も大きいですね。
存続させる責任。一人でも多くの家族に「よかった」と言ってもらうために
─今後の展望についてお聞かせください。
大きなことを言えば、「日本中の介護を変えたい」という想いはあります。でも、それは総理大臣にでもならない限り難しい(笑)。私たちが今できることは、目の前の一人ひとりの利用者さん、そしてご家族に「ここを選んでよかった」と思ってもらうこと。それに尽きます。
ただ、代表という立場としては、この場所を守り続けていく責任があります。介護保険制度という枠組みのなかで、一つの事業だけで存続していくのは、今はもう難しいですよね。今後は、もう一つの柱となるような新しい事業展開も視野に入れています。それが介護の延長線上なのか、全く別の形なのかは分かりませんが、すべては「里里(さとり)」を存続させ、地域の皆さんに還元し続けるためです。
<会社情報>
| SecureBase合同会社 | |
|---|---|
| 所在地 | 三重県松阪市殿町1466-53 |
| 設立 | 2024年10月 |
| URL | |
| ※一部画像はSecureBase様提供 ※情報と肩書は取材当時のもの |
|


