温活グッズで1000万円新規取引
創業130年ユメロン黒川、変化を恐れぬ4代目の挑戦

福井県越前市、タンス町通りに130年の歴史を刻む株式会社ユメロン黒川。布団の綿製造から始まった老舗企業は、時代の変化を敏感に察知し、健康雑貨、そして未病ケア商品へと事業を転換してきました。4代目社長の黒川氏が語る経営の核心は「常に危機感を抱くこと」。婚礼布団全盛期に「これは続かない」と健康分野へシフトを決断し、大学と共同研究をしながら商品を開発しています。Big Advanceのビジネスマッチングでつながった企業とは取引額1000万円を突破。「本物を作る」「相手に喜んでもらう」——老舗の信念を継承しながら革新を起こす黒川氏に、商品開発の秘訣を伺いました。
株式会社ユメロン黒川 代表取締役 黒川 裕文 様
130年の歴史、綿業から健康雑貨への転換
─まず、御社の創業からの歴史について教えてください。
当社は福井県越前市で布団の綿製造で創業し、今年(2025年)でちょうど130年を迎えます。私は4代目になります。当社のあるタンス町通りは、創業200年を超える商店がいくつもある歴史ある地区なんです。
創業当初は九州で採れた綿花を仕入れて、こちらで綿(わた)にして地元で卸していました。その後、日本での綿花栽培が衰退したので、インドやカリフォルニアなどから輸入して、布団の綿を主力商品としていました。一番売れていたのは戦前です。満州へ舞鶴から船で輸出していた時期が、綿業としては最も栄えた時代です。
─現在の事業内容について教えてください。
合成繊維、次いで羽毛布団が出てきて、当社は岐路に立つわけですが、寝ている間に少しでも体に良い影響を与えるものができないかと考えるようになったんです。布団は毎日7、8時間使う道具で、実は道具の中でも使用時間が長いんです。そういった意味で、布団はとても重要なものですよね。そこで、綿にこだわらず体を温めるいろいろな素材にチャレンジしていくうちに、遠赤外線の中でも特定のものが良いということが分かってきたんです。
それで開発した「天然鉱石繊維」は、天然鉱石をポリエステルやレーヨンなどの繊維素材に練り込んだものです。発熱繊維ではなく、天然鉱石が持つ蓄熱・遠赤外線効果で体が生み出した熱エネルギーをうまく利用する、「自分で自分を温める」蓄熱繊維です。熱くなりすぎないので快適で、じんわり心地よい自然な温かさが持続するんです。

「あったか商材」から広がる商品展開と新たな挑戦
─御社の主力商品について教えてください。
当社の主力は、天然鉱石繊維を使った「あったか商材」です。寝具だけでなく、インナーやアウターなど衣料品にも応用して、テレビショッピングなどを通じて全国に販売しています。
天然鉱石を使った足湯も開発しました。水を使わずに、天然鉱石による遠赤外線の温熱効果を利用したもので、大学で検証したところ、副交感神経が優位になりリラックスできるというデータも取れました。この商品は、オーストラリアのパースにある企業にも採用いただいたんです。日本的な「足湯」の文化に興味を持ってもらえたのもありますが、オーストラリアは水を大事にする国だそうで、水を使わないということが良かったようです。
─順調に見えますが、課題もあるのでしょうか?
「あったか商材」の課題は天候に左右されることですね。冬だけで商売が終わってしまうというのではダメですよね。
そこで8年ほど前から、「あったか商材」でも年中使える商品を開発しようと考えました。腱鞘炎サポーターのような、温かくて血管が広がり使いやすいウォーマーや、年中使えるマットなどです。また、医療現場からの声に応えて開発したのが、採血時に「管が広がる」ウォーマーです。大学で効果を検証し、今後病院向けに商品化する予定です。
こうした取り組みの中で生まれたのが、未病ケア商品への展開です。
妻の腰痛から生まれた「nobiraku」、産学連携で挑む商品開発
─「nobiraku(のびらく)」という商品についても教えてください。
寝姿勢改善パッド「nobiraku(のびらく)」という商品です。妻が腰を患っていて、毎週病院に連れて行っていたんです。牽引療法という治療で、腰を引っ張ると神経が離れて痛みが緩和します。でも、1週間経つとまた戻ってしまう。その治療を見ていてふっとアイデアが思いついたんです。
開発のヒントは、20代の時に海外で見た竹のベッドです。竹を繋げたような構造のパッドを作れば、自分の体重を利用して、寝ている間に自然に体を伸ばしてあげられるのではと思いついたんです。開発には2年半ぐらいかかりましたが、 もちろん妻に最初に使ってもらいました。朝、起き上がることも外を歩くことも辛かった妻が、昔のように朝起きて歩けるようになったんです。
それを見た親戚や知人から欲しいと言われて、10人分作って渡したら、8人が使って5日目に「腰が楽になってきた」と言ってくれました。「これはいける!」と思って大学の先生を紹介してもらい、共同研究したところ非常にすばらしいデータが取れました。新聞に発表したらものすごい問い合わせが来て商品化に至ったんですよ。
─大学との共同研究について教えてください。
県の産学連携の補助金を活用しながら、富山、石川、福井の北陸3県の大学で主に医療系の教授と共同開発しています。ありがたいことに、一つできると次につながっていくんですよね。「こういうことをやりたい」「こんな素材を持っている」と言うと、「じゃあ、こんなのできない?」と先生から提案されたり、「それならこの先生がいいのでは」と紹介してもらえたり。
ただ、やっぱりうまくいかないことも多いです。試作の山ができて、ボツも多いですよ。特に天然鉱石繊維の開発には10年ぐらいかかりました。途中で何度もやめようと思いました。「これでいける」と思っても、また壁が出てくるんです。ようやく完成したのが一昨年(2023年)です。
まあ、完成したからといって商品がどんどん売れるかというのは、またそれは別の話ですけどね(笑)

「真面目にやっていても駄目になる時は来る」
婚礼布団全盛期に抱いた危機感
─商品開発の源泉はどこにあるのでしょうか?
一番はやっぱり危機感ですね。「これで良いのか」「この商品を作っていて良いのか」「何かもっと違うものができないか」というのがいつも自分の中にあります。「これで良い」とは思えないんです。
危機感を抱くようになったきっかけは、婚礼布団の全盛期ですね。そんなに昔の話でもないんですけど、この辺は冠婚葬祭にお金をかける地区で、嫁入り道具に一人1000万円かかるとか、そういう時代があったんです。嫁入り道具には着物と寝具が必ずあって、自分が寝る布団とお客さん用の布団、座布団をセットで持っていくんです。1組で50万円ぐらいの売り上げになるので、春と秋の婚礼シーズンだけで1年間の売り上げができました。
─それだけ良い時代に、なぜ危機感を抱いたのですか?
「これはきっと続かない」と思ったんです。いつか駄目になった時に自分はどうしようか、何かやっておかなければいけない。そういう考えがあって、「健康」にシフトしていこうと決めました。もし時代が変わって布団が売れなくなっても、健康に関するものを作っていればいいんじゃないかと思ったんです。
昔、満州に綿を出して儲かっていた時代も、結局は戦争で一辺に終わってしまいました。だから、やっぱり時代の流れを見ておかないと。いくら真面目にやっていても駄目になる時が来る。それが自分の危機意識です。
Big Advanceで実現、宮崎との1000万円取引
─Big Advanceを始められたきっかけは?
当社の商品にマッチする相手を探していた時だったんです。「こういう企業があるといいな」と具体的に考えていた時に、ちょうど金融機関の方に勧められました。
一昨年(2023年)にマッチングした宮崎の健康食品や健康器具を扱っている企業とは最もうまくいっています。「どうも話が合う」ということで取引が始まり、今も続いています。提供しているものは「あったか系」の商材などさまざまです。マットのOEM製造もしました。取引額は累計で1000万円以上です。当社の中では大きな取引先となりました。
お互いの会社にも訪問していて、先方の社長さんには何度もお会いしています。ネットで「お見合い」して、こんな風に良いお付き合いが続くなんて、本当に想像できなかったですね(笑)
「本物を作る」哲学が導く未病ケアと世界展開
─これまでのキャリアの中で、転機となった出会いはありますか?
親族に有名なお坊さんがいて、私も若い頃はお坊さんになるつもりでしたが、家の事情で商売のほうに行くようになったんです。あるスーパーマーケットの開発部に就職して、店舗開発を経験する中で、やっぱり自分には開発というのが合っていると感じました。その時に4代目として養子に入ることになり、商品開発の道に進みました。
もう一つ大きかったのは、お客様からいただいた一通のお手紙です。当社で作った布団を持って東京に嫁いだ方が、東京の打ち直し屋さんに出したら「この布団、どこで作ったの?すごい綿が入っている」と言われたそうなんです。その時に、本物を作っていくのは間違いないんだと改めて決意しました。ものづくりの第一は、やっぱり相手に喜んでもらうことなんです。
─今後の展望について教えてください。
「あったか商材」は当社の基本商品なので、これを続けて新しいものを作っていきます。
同時に、未病ケア商品の開発にも力を入れています。大学の先生と共同で開発を進めていて、将来的には医療用にまで持っていける可能性があるものもあります。 特に力を入れているのが、姿勢を良くするマットです。腰痛で悩んでいる人、姿勢で悩んでいる人はたくさんいます。多くの人に使ってもらえることが一つの希望というか、夢ですね。そのために毎日改良しながらものづくりをしています。

<会社情報>
| 株式会社ユメロン黒川 | |
|---|---|
| 所在地 | 福井県越前市元町5-7 |
| 設立 | 1894年 |
| URL | |
| ※情報と肩書は取材当時のもの | |








