「売らない」SNSが突破口に
第一金剛のキャラ「削ちゃん」がつなぐ輪
自動車産業が盛んな静岡県湖西市で、研削砥石や切削工具といった商材の専門商社として歩んできた第一金剛株式会社。新規開拓の難しさという壁に直面するなか、同社が選択したのは「SNSでは自社の商材を一切宣伝しない」という取り組みでした。
その象徴が、公式キャラクター「削(さく)ちゃん」です。AIや動画技術を駆使してキャラクターを動かし、時には立体物として親しみやすさを演出する。一見、BtoB企業とは無縁に思えるこの存在が、業界の枠を超えたつながりをもたらしました。それは企業間で不要品をシェアするエコプロジェクト「#SAKUMOP」へと波及し、新たな関係も生み出しています。1968年から続く老舗工具商社の、挑戦の裏側をお聞きしました。
第一金剛株式会社 代表取締役社長 角皆 一如 様
取材企業からの紹介で繋がった、ユニークな取り組みをしている経営者たちvol.2
以前取材した杉浦発条の杉浦様が、「この人たちの挑戦を知ってほしい」と紹介してくれた経営者たち。互いに刺激し合い、それぞれの分野で独自の価値を創造する姿をシリーズでお届けします。
研削砥石と切削工具の両輪で、製造現場のニーズに対応
─まず、御社の成り立ちと事業内容について詳しく教えてください
当社はもともと、愛知県名古屋市の企業から分社・のれん分けという形で立ち上がりました。拠点をおいている静岡県西部は、隣接する愛知県にある自動車製造業のグループ会社や関連工場が非常に多く集まっているエリアです。そんな自動車産業を中心に、最初は「砥石屋(といしや)」として、ガリガリと削ったり磨いたりするための商材を扱う商社としてスタートしました。
現在は研削・研磨に関するあらゆる商材に加え、切削工具なども幅広く取り扱っています。この事業を始めた当時、業界では「砥石は砥石屋さん」「工具は工具屋さん」という形で、扱う分野がはっきりと分かれているのが一般的でした。同じ「削る」ための道具であっても、それぞれ専門領域が違うという認識だったんです。それを一緒にやるというのは、当時では珍しいことだったのですが、当社は両ニーズに対応可能な商社として拡大してきました。
あえて商材PRを捨てたSNS発信で認知度獲得へ
─SNS、特にX(旧Twitter)での発信に注力されていますが、始めたきっかけは何だったのでしょうか
もともと公式Xアカウントは持っていましたが見る専門でした。自分の代になって数年経ち、新規のお客様を増やそうと動いてみたのですが、この地域(湖西市周辺)やこの業界には閉鎖的な一面があります。古くからの付き合いが重視され、当社のような中小企業が新しい扉を叩いても、なかなか相手にしてもらえない。そんな状況を打破するきっかけになればと、少しずつ発信を始めました。
最初は、自分たちの商材である工具などを載せていたのですが…誰も見に来てくれませんでした(笑)。工具の紹介なんてどこもやっているし、見てくれたとしても買いには来ない。じゃあSNSをやっても意味がないのかなと諦めかけていたんです。
─なかなか反応が得られない中で、転機はあったのですか?
ある時、つながりがあるメーカーさんが大きな展示会に出られていて、SNSで拡散してほしいと言われたんです。当社とは直接関係のない内容でしたが、投稿してみたら、普段は全然リアクションがないのに、結構多くの人が見に来てくれたんです。自社が関わっていないものでも、見てもらえれば企業の認知度は上がるな、と気づきました。そこからあえて「自分たちの商材を出すのを一切やめる」という、正反対の方向に舵を切りました。それがちょうど1年前くらいのことです。
独自のキャラクター戦略が新規開拓の突破口に

第一金剛公式キャラクターの削ちゃん
─そこで誕生したのが、公式キャラクターの「削(さく)ちゃん」だったのですね
そうです。まずは会社の存在を知ってもらうために、キャラクターを前面に押し出すことにしました。当社が大事にしている「研削・切削」の「削」という一文字をとって「削(さく)ちゃん」と名付けました。一切の宣伝をやめて削ちゃんを推していったら、意外にもつながりが広がったんです。今までは工業関係のお客様だけだったのですが、印刷業、飲食業、農業といった異なる業界の方々とつながれるようになりました。自社製品の売り込みを一切しない姿勢が、むしろ好印象を与えたのか、先方からお声がけをいただく機会も増え、この1年で状況は劇的に変わりましたね。
─削ちゃんの投稿内容やキャラクター制作についてどんな点を工夫されたんですか?
今でこそ当たり前になってきていますが、キャラクターを動画で動かすことに挑戦しました。当時はAIを使っても簡単にはできなくて。企業キャラはたくさんいますが、動いているケースは少なかったし動いていても小さな動作でした。そこを、当社の場合は本格的に動かそうと思って力を入れた動画を作りました。また、ぬいぐるみも、よくある布製のぬいぐるみではなく「あみぐるみ」を作りました。こだわりすぎて、2体目の制作は難しいとクリエイターさんに言われたくらいです(笑)。
キャラクターを作るとき、誰もやっていないことを全部やろうと思ったんです。良い違和感というか、あまり見たことないものがSNSのタイムラインに流れてきたら目を引くじゃないですか。それに、工具や砥石を扱っているようなニッチな業界の商社が、そのイメージとはかけ離れたことをやって注目されたら面白いんじゃないかなと思ったんです。
功を奏して、当時フォロワー数は200人いるかいないかだったと思いますが、今は約4400フォロワーまで増えました(2026年3月現在)。

削ちゃんのXアカウントより。キャラクターが動く動画投稿が話題
廃棄を価値へ。ハッシュタグでつなぐリユースの輪
─SNSをきっかけに変化したことは他にもありますか?
「企業間エコプロジェクト」という取り組みを始めました。企業間で不用品をシェア・リユースし合うプロジェクトです。
当社ではメーカーさんから仕入れる際に梱包材が大量に余るんです。廃棄するにもお金がかかるので、「誰か欲しい人いないですか?」と発信したのが始まりです。そしたら複数の企業さんが欲しいと言ってくれて、資材屋さんがトラックで引き取りにも来てくれました。廃棄代もゴミも減るし、資材屋さんは喜んでくれるしWin-Winでした。
きっと他にも同じ困りごとを抱えている企業さんがいるだろうなと思い、#SAKUMOP というハッシュタグを作り、削ちゃんを使ってX上で呼びかけてみました。建築会社の方が、現場で出た資材や仮説トイレが余って困っていた時も、タグを使ったら色んな企業さんが拡散してくれて、全部引き取ってもらえたそうです。使用済産業用ダイヤのリユース、木柄、干渉防止用ラベル…などいろいろな「もったいない不要品」を発信し合っています。
─SNSの特性がとても活かされた取り組みですね
そうですね。削ちゃんの認知向上につながるメリットもありますが、SNSの力を使って誰かが困った時にみんなで拡散し合って、必要な誰かに届いてくれれば嬉しいな、と思っています。
─周囲を巻き込む力が素晴らしいですが、これまでの出会いや出来事の影響はありますか?
あります。大阪での修行時代です。砥石関係のメーカーさんで修行させてもらっていたのですが、大阪の人たちの商売の仕方や、人柄というか土地柄に、大きな影響を受けました。
とにかくオープンで人に対してガンガンいくんです。僕が、そっと一人にしておいてほしいなという時でも、触れてきて「怒ってるのか?」とこじ開けてくるんです(笑)。ただそれはいい加減にやっているわけではなく、人や状況をよく見ているんですよね。そんな大阪の人たちのおかげで、社交的ではなかった僕が、物怖じせず人とのコミュニケーションを取れるようになりました。
余った倉庫を「ものづくりの起点」へ。第一金剛が描く未来図
─では最後に、これからの展望についてお聞かせください
事業としては、将来的に社内にある大きな倉庫をリノベーションして、複合施設を作りたいという構想を持っています。
かつては『はじめ人間ギャートルズ』に出てくる石のお金のような、100キロ、200キロもある巨大な商材をたくさん扱っていました。しかし、自動車産業はEV化の進展や生産拠点の海外移転に伴い、そうした大型商材の加工が減り、広い倉庫の半分以上が空いてしまったんです。
─その余ったスペースを、新しい価値に変えていきたいということですね
そうです。ただの広場にするのではなく、中をリノベーションして、カフェのような雰囲気の交流施設や、シェアオフィス、コワーキングスペースを作れたらと考えています。
そこに工房や機械を設置して、メーカーさんがデモ機を置いたり体験できたりする環境を整える。いろいろな企業さん同士がつながり、そこに行けば何か新しいことが始まるような「ものづくりの起点」となる場所にするのが夢です。それが巡り巡って、本業である商社にもつなげられたら、と思っています。
─キャラクター「削ちゃん」の目標はありますか?
「メカトロテックジャパン」という名古屋で開催される大きな展示会があるのですが、そのカタログの表紙を飾っているキャラクターが女の子なんですよ。いつか、そこに「削ちゃん」を載せたい(笑)。応援サポーターみたいな立ち位置のキャラクターになれたらなあと。それが今の大きな野望ですね。
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<会社情報>
| 第一金剛株式会社 | |
|---|---|
| 所在地 | 静岡県湖西市新居町中之郷2593-1 |
| 設立 | 1968年4月 |
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| ※情報と肩書は取材当時のもの ※一部画像は第一金剛様提供 |
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