紙媒体とデジタルの融合で商機を創出
伝統と革新で築くかすが紙工のこれから

創業以来30年以上にわたり呉服店向けの販促品を展開してきた株式会社かすが紙工。コロナ禍や原材料高騰という困難に直面するなか、自社ホームページを活用したデジタル戦略と従来の対面営業を組み合わせた取り組みで新たな道を切り拓いています。「商売の基本はFace to Face」という信念を大切にしながらも時代の変化に対応する児玉代表に、これまでの試練とそれをどう乗り越えたか、今後の展望について語っていただきました。
株式会社かすが紙工 代表取締役 児玉 健一郎 様
歴史ある紙問屋から事業承継、そしてコロナ禍での試練
─御社の簡単な事業内容や歴史について教えてください。
かすが紙工は平成2年(1990年)8月に福岡県那珂川市で創業し、現在36年の社歴があります。前社長が文庫紙、いわゆる着物を包む紙の卸問屋として事業をスタートさせました。社名の『かすが紙工』は、福岡の春日地方で創業したことに由来しています。
当社の主な事業形態はBtoBで、呉服店に対して催事イベント用のプレゼント商品を納品するビジネスモデルを構築してきました。九州各県の逸品(明太子他)や雑貨(桐箪笥)なども取り扱い、品目を増やしながら業績を伸ばしてきました。
─児玉様はどのようなきっかけで事業を承継されたのですか?
私は平成6年(1994年)から印刷会社の営業として勤務していました。営業先の知り合いからかすが紙工の社長を紹介され、翌年から取引を開始し、20年以上にわたりカタログ・チラシの印刷に携わってきました。平成30年(2018年)頃に前社長から事業承継の相談を受けたんです。
前社長は跡継ぎがおらず、廃業によって顧客に迷惑をかけたくないという思いから、カタログ・チラシのデータを持っている私たちに声をかけてくださいました。丁度、印刷業全体が斜陽となり新規分野を模索していた私たちと考えがマッチし、事業承継を引き受けることになりました。
令和元年(2019年)8月に福岡から宮崎に事務所を移転し、3人でスタートしました。しかし、承継からわずか5ヶ月後に中国でコロナが発生。翌年1月には日本に上陸し、イベントの中止が相次ぎました。予約されていた商品はすべてキャンセルとなり、新規イベントの予定も立たない状況に陥りました。
コロナに続く世界情勢の変化と顧客減少の危機
─コロナ禍に加え、世界情勢の変化も経営に影響したと伺いました。具体的にはどのような課題に直面されましたか?
コロナ禍に続き、ロシアのウクライナ侵攻による原油高騰も当社の経営を直撃しました。明太子の主要な仕入れ元がロシアだったこともあり、原材料価格や輸入価格が高騰、さらに当社の主力商品であった桐の衣装箱の材料も大幅に値上がりしました。
桐の衣装箱は利益率が非常に高い商品だったのですが、メーカーから『生産を取りやめたい』と連絡が入り、新たな仕入れ先を探さなければならなくなりました。何とか別のメーカーと繋がりましたが、仕入れ価格は上がり、納期も時間がかかるようになってしまいました。
コロナ禍や戦争の影響は顧客にも出ており、季節ごとに送っていたダイレクトメールが次々と『受取人不在』で返送されてくる事態になりました。当時はDM一通の発送費用が100円前後、一度でもご注文いただければ大した経費ではないのですが、3000通ほど送っていたDMが大量に返ってくるとなると話は別です。
この状況を受け、名簿の見直しを実施しました。過去数年間一度も受注のなかった顧客への発送を停止し、実績のある顧客に絞ってアプローチするよう方針を転換したんです。公的補助金や助成金で急場をしのぎ、ギリギリのところで舵取りをして本当に厳しかった時期でした。
Big Advance活用で新旧顧客と新たな接点をつくる
─そのような状況の中、Big Advanceとの出会いがあったそうですね。
新たな販売方法を模索する中で、宮崎銀行の担当者の方からBig Advanceを紹介されました。それまでも自社のホームページはあったのですが、利用率や売上アップにはなかなか繋がらず悩んでいました。ホームページの改修や新規での再構築には多額の費用と時間が必要ですし、うまくいく保証もないですよね。月々の利用料が安価で、銀行のネットワークの強みが生かせるBig Advanceに着目しました。
Big Advanceに会社や商品情報を登録したところ、徐々に閲覧してくれる方が増え、問い合わせも増加しました。特に以前取引のあった顧客からの『カタログはまだもらえますか?』といった問い合わせが目立つようになりました。
従来の顧客に対しては30年以上にわたって紙媒体でのご案内を続けてきており、また顧客の担当者も年齢が上の方も多いので、半紙・半デジの体制を試みました。画面よりも紙で見たいという方が多い中で、全体からするとまだ数パーセントではありますが、Big Advanceのホームページに載せているデジタルカタログを見ている方もいて、認知度は徐々に高まってきていると感じます。
─新規の顧客開拓にも効果がありましたか?
新規のお客様からの問い合わせも発生しています。特に全国的に取り扱いメーカーが減少している桐箪笥について、『専門店で買いたい』というニーズに応える形で新規取引につながっています。桐箪笥は高級品なので、専門知識を持った信頼できる業者から購入したいというお客様が多いですね。
デジタル時代でも大切な人とのつながり
─営業において大切にされていることはありますか?
自身の営業経験から『商売(営業)の基本は Face to Face』という思いがあります。
ITやSNSが便利な時代ですが、お客様に商品を選んでもらうには、直接会って信頼関係を築くことが大切だと思っています。だからこそ、福岡のお客様には3ヶ月に一度、東京・大阪のお客様には年に一度は必ず顔を合わせるようにしています。たとえ30分の短い面談でも、世間話をして絆を深めることで、その後の電話でのやり取りも親密になります。
同じ商品を扱う業者が複数ある中で、「この前来てくれたあの人に頼んでみようかな」と思ってもらえるような関係を築くことが、私の営業スタイルです。
Youtubeから再認識したビジネスの原点
─これまでに印象に残った出会いのエピソードはありますか?
一つは本なのですが、コロナ禍で著名な経営者の著書を多く読み込みました。共通して見えることは、創業期・低迷期にどの経営者も思い悩み、時には先頭に立ってどぶ板営業をやり、売り上げを積み上げながら改善を繰り返し行っていること。特に京セラの稲盛和夫会長の本は繰り返し読み返しています。
また、最近YouTubeで知った27歳の女性起業家の事例が大きな刺激になっています。広島で27歳の女性がおにぎり屋を始め、広島の町中をリヤカーを引きながら営業販売しています。もともとは携帯ショップの販売員だったようですが、飲食業は初めての挑戦で悪戦苦闘の毎日だったそうです。最初は1日3個しか売れなかったのが、今では120個を完売するまでになりました。彼女は『恥ずかしさを捨てました』と言い、堂々とした姿勢でお客様に接することで成功しました。
この女性は超アナログな販売方法に加え、スマホで販売の現在地をライブ中継するなど新旧の営業活動を組み合わせているところも学びになります。商売の原点的なものは、時代が変わろうが、機器が変わろうが、基本となる部分は絶対揺るがないものがあると再認識しました。
経営者として判断し続けることの大切さ
─今後の展望についてお聞かせください。
従来の販売事業は頭打ちになっているので、これを立て直すとともに、BtoCへの展開も模索したいと考えています。経営者として大事なのは、判断し続けること。以前本で読んだのですが、いい判断をするのは当然ですが、間違った判断をしても修正すればいい。一番駄目なのは何も判断しないことだ、と。前に進まないことは結果的に失敗になります。
当社はコロナ禍で数年間赤字決算が続いていましたが、前期の決算でようやく黒字化への光が見え始めています。数年間の苦しい状況の中、見守り続けてくださっている宮崎銀行様をはじめ、関係者の皆様に感謝しています。今後も会社のため、従業員のため、地域のため、そして自分のために頑張っていきたいと思います。
<会社情報>
株式会社かすが紙工 | |
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所在地 | 宮崎県西都市大字三宅2805 |
設立 | 1990年8月 |
URL | |
※情報と肩書は取材当時のもの |