文具の楽しさを伝え地域に寄り添う
マルシンが追求する“リアル店舗”の価値
1945年8月。終戦直後の混乱期、兵庫県豊岡市で一台の自転車が走り出しました。荷台に積まれていたのは、当時広く用いられていた「わら半紙」。のちの「マルシン文具店」の始まりです。それから約80年。2023年に「株式会社マルシン」へと社名を改めた同社は、三代目・浮田喜弘代表のもと、新たな一歩を踏み出しています。80周年を機に開催された文具への思いが詰まったイベントやSNS・ホームページを駆使した情報発信と社内連携を強化。ネットで何でも買えるデジタルデバイスが主流の時代に、文具との出会いや楽しさを追求する老舗の挑戦を、代表と専務のお二人に詳しく伺いました。
株式会社マルシン 代表取締役社長 浮田 喜弘 様/専務取締役 浮田 明寿加 様
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終戦直後の豊岡を駆け抜け、軒先から始まった原点
―まずは御社の事業概要と、これまでの歩みについて教えていただけますか?
浮田代表 もともと当社は文具店からスタートしていまして、昔は本当に町によくある文具屋さんでした。時代の流れとともに、OA機器やオフィス家具、コンピューター系など、オフィスで使うものは一通り取り扱うようになってきました。
実は2023年に社名を「株式会社マルシン」に変えたばかりなんです。それまでは「マルシン文具店」という名前だったのですが、実質的な売り上げはOA機器やオフィス家具がメインになっていたので、実態に合わせて社名を変え、心機一転して今3年目といったところです。
―創業は1945年8月。まさに終戦のタイミングですね。
浮田代表 そうですね。私の祖父が初代なのですが、当時は自転車一台で、カゴに「わら半紙」を積んで売り歩いていたと聞いています。わら半紙ってご存じですか?学校のプリントなどで使われていた、少し色の付いた紙です。その紙を売るのがスタートだったんです。この場所で自転車で売り歩き、少しずつお客様がついてきてから、小さな家の軒先に紙や鉛筆を並べて売り出したのが、当社の始まりです。そこから紆余曲折ありながら、今に至るという感じですね。
ECサイトではなく、リアル店舗の価値を問い続ける
―2023年に法人化され、代表に就任されてから、意識して変えられたことや力を入れている部分はありますか?
浮田代表 正直なところ、代表になる前から実務は私が回していた部分も多かったため、急激に方針を転換したわけではありません。ただ、注力しているところとしては、クリックすれば明日届くというECサイトとの差別化です。この地域には文具屋さんってもうほとんどないんですよ。でも、だからこそ「リアル店舗を持つ意味」を常に問い続けています。例えばボールペン1本でも、実際に握って、書いてみて、その書き味に納得して買っていただく。ネットでは10冊パックでしか買えないノートを、1冊から手に取れる。そういった、町の文具屋さんならではの距離感とメリットを大切にしています。それを20代の社員が中心となってSNSなどで発信してくれていて、なんとか今の時代に踏ん張っているという感じですね。
明寿加さん カメラが得意な社員が、インスタグラムに掲載するための写真撮影を買って出てくれています。屋外に小さなテーブルを出し、自然光の中で商品の魅力を引き出してくれています。
実は背景に使っている色とりどりの紙も、うちにある色画用紙なんです。「売るほど」ありますから(笑)、自分たちの強みを活かした発信を心がけています。

文具をもう一度生活の真ん中に。170のアイデアが届いた80周年企画
―昨年開催された「夢の文具大募集」という企画も、インスタグラムを中心に盛り上がったと伺いました。この企画の背景を教えてください。
浮田代表 代表になってすぐに迎えたのが80周年という節目でした。そこで、商売は抜きにして、地域の人にマルシンを知ってもらえるようなイベントをしたいと考え、社員みんなで企画しました。「こんな文具があったらいいな」というアイデアを自由にイラストにして応募してもらったんです。
―豊岡市内の学校すべてに声をかけて回られたそうですね。
浮田代表 はい、幼稚園から大学まで、マンパワーで応募用紙を配って回りました。今の時代、学校もデジタル化が進み、手書きする機会が減り、AIが何でも考えてくれます。対して文具は極めて「アナログ」な存在です。そんな文具を使ってアイデアを文字に書いたり、絵で表現したりすることで、もう一度生活の真ん中に文具を戻してもらえたらいいなという思いでした。
―結果として、どのくらいの応募があったのでしょうか?
明寿加さん 最終的に170通ほどの応募をいただきました。インスタで発信したからか、豊岡市内だけでなく、奈良、大阪、神戸、姫路といった遠方からも応募が届いたのには驚きましたね。豊岡駅前にあるショッピングセンターの「アイティ」で展覧会も開催し、応募作はすべて展示しました。
浮田代表 受賞作品も素晴らしかったです。グランプリを獲った小学1年生の子の作品は、ホッチキスの針がなくなると「お腹が空いたよ」と教えてくれるホッチキスでした。私たち大人は実現できるかどうかをまず考えてしまいますが、子どもたちは自由に思ったものを書くんですよ。今回多くのメーカーにも後援いただきましたが、そんな文具のプロの方も「普段絶対に考えないような発想に携われて良かった」と真剣に審査してくださいました。
明寿加さん 各メーカーには全作品のデータをお送りして、全部の中からメーカー賞を決めていただきました。
―表彰式も大盛況だったそうですね。
明寿加さん はい。十数名の受賞者に対して付き添いはお一人くらいかなと考えていたのですが、ご両親から姉弟、おじいちゃん、おばあちゃんまで駆けつけてくださったり。用意した会場の椅子が足りなくなるほど、ぎっしりのお客様でした。受賞したお子さんはもちろん、ご家族が本当に嬉しそうにされている姿を見て、やってよかったと心から思いました。

社員もお客様も、みんなが優しい。マルシンを支える心の触れ合い
―御社は従業員の皆さんの定着率が非常に高いと伺いました。
浮田代表 そうですね。当社の部長は私が高校生でバイトをしていた頃から知っていますから、勤続40年を超えています。他にも30年、40年というベテランばかりです。70代でも「頭脳明晰、体力も現役」というスタッフもいて、本当に家族のような絆があります。
―長年勤めてくれる理由は、どのようなところにあると思われますか?
浮田代表 自分で言うのもなんですが、一言で言えば「ほわっとしている」というか、優しい社風なんだと思います。ガツガツ売るというよりは、お客様の困りごとに親身に寄り添う。周りも優しい方が多く、優しさに支えられてここまで来た感じです。
明寿加さん そうなんです。お客様も優しい方が多くて、お店に入るときに「こんにちは」とか「失礼します」と言って入ってきてくださる方がとても多いんですよ。以前、美大に進学した地元の高校生が、受験期に励ましてもらったお礼にと、うちの店をモデルにした素敵なイラスト作品を届けてくれたことがありました。そんな心の交流があることが、本当にうれしいですね。

店をモデルにしたイラスト作品
地域の元気が商売を支える。仕事への考え方が変わった転機
―お二人のこれまでの人生で、印象的だった出会いがあれば教えていただけますか?
浮田代表 私は約20年前、青年会議所(JC)という団体に所属したことが大きな転機になりました。もともとはサラリーマンをしていて、家業を継ぐつもりはなかったんです。でも、紆余曲折あって父から「帰ってきてくれ」と言われて戻りました。
地元に戻ってきて、いろいろなお誘いがある中でJCに入ったのですが、最初は正直「仕事をほっぽらかして何をしているんだ」と思っていました(笑)。でも、彼らは地域のために一生懸命頑張っているんですよね。私も役職を務めさせていただく中で、考え方が変わりました。
―具体的に、どのような変化があったのでしょうか?
浮田代表 「ここで商売をしているなら、ここ(地域)が元気じゃないとあかん」と思うようになったんです。JCに入るまでは視野が狭かったですが、地域のイベントや活動を通じて、地域を盛り上げることが、ひいては自分たちの商売の盛り上がりにも繋がるという視点を持てるようになりました。今回の「夢の文具」のような活動にたどり着いたのも、この時の経験が根底にあるからだと思います。
―専務はいかがでしょうか?
明寿加さん 私は結婚をきっかけに家業を手伝うことになったのですが、特別な出会いというよりは、日々のお客様との出会いにやりがいを感じています。ネットで何でも買える時代ですが、お店に来てくださったお客様が喜んで帰られたり、時にはお菓子を持って「この間はありがとう」と会いに来てくださったり。そういう触れ合いがあるうちに、どんどん接客が楽しくなってきました。おしゃべりをしたり相談に乗ったりして、「満足のできる良い買い物ができた」と思ってくれる人が一人でも増えたらいいなという気持ちで、日々過ごしています。
商品を充実させ、地域に必要とされる地域一番店へ
―最後に、今後の事業展開や展望についてお聞かせください。
浮田代表 当社は現在、店舗での販売と、会社を訪問して回る納品業務の2つの柱があります。売り上げの大半は納品の方が占めていますし、もちろんそこにも注力していきますが、それ以上に「お店を構え続けること」にはこだわっていきたいです。
子どもから年配の方まで足を運んでもらえるお店でありたいんです。今の時代、わざわざ来店してもらうこと自体が難しい挑戦かもしれませんが、だからこそSNSやBig Advanceのホームページなどを駆使して発信し、お店で話してみたいな、商品を手に取ってみたいな、と思ってもらえるお店づくりを続けたいですね。そして、品質と品揃えをさらに充実させて、地域に必要とされる「地域一番店」を目指していきたいと思っています。
<会社情報>
| 株式会社マルシン | |
|---|---|
| 所在地 | 兵庫県豊岡市泉町2-24 |
| 設立 | 2023年9月 |
| URL | |


