奈良発の靴下メーカー、スタジオ・ポアック
出会いを紡いで新分野進出

創業31年を迎える株式会社スタジオ・ポアック。奈良県を拠点とする靴下製造・卸売業から始まり、現在は雑貨やぬいぐるみまで手掛ける総合商材メーカーへと事業を拡大しています。Big Advanceを活用したマッチングで新たな販路開拓を進める辻本社長に、創業からの歩み、事業転換の経緯、そしてこれからの展望について詳しくお聞きしました。
株式会社スタジオ・ポアック 代表取締役社長 辻本 政憲 様
糸商から靴下工場へ、奈良発50年の製造業ストーリー
─まずは御社の創業からこれまでの歩みを教えてください。
スタジオ・ポアックは問屋会社ですが、始まりは繊維業です。私の父は糸を仕入れる商社で営業をやっていたんですが、その会社が倒産した時に、取引先から「会社が潰れているのは分かるが、とりあえず糸を仕入れてきてください」という注文が入ったのが始まりでした。
当時、奈良県下の靴下業界は糸の供給が足りない状態でした。メーカーが主導して、バイヤーさんが工場まで商品を取りに朝から待っているような状況で、糸を運ぶだけで売上が立つような時代だったんです。
その売上で靴下の工場を作って、編立(あみたて。糸から生地を作製する工程のこと)を始めたのが前身の辻商株式会社です。この会社は今はありませんが、工場操業開始が50年前(2025年現在)になり、私の年と同じになります。
─靴下づくりには多くの工程があるそうですね。
靴下は表糸、裏の伸縮性のある糸、履き口のゴム、この3つだけで作られているんですが、表糸は全部つながっていて、上手に戻したら1本の系になるんですよ。
シンプルなようですが、製造工程は複雑です。まず、機械で筒状に編み立てられた靴下が出てくるのですが、つま先部分が開いた状態です。つま先を縫製するために手作業で裏返し、ここで一度検品します。つま先を縫い合わせたら再び表返してアイロンをかけて形を整えます。多少の誤差があるので、慎重に左右をペアリングし検品。タグをつけたり袋詰めなどをして完成です。この作業は5キロ圏内にある複数の会社で分業しています。1本の糸でつながるように、多くの方が関わって靴下はできあがります。
小学生の頃は、夜遅くまで家族総出で内職をしていました。10足で1束をくくって2円もらうような作業を手伝っていましたし、日曜日の遊び場は工場でした。機械を見るのがおもしろくてね。靴下に囲まれて育ちましたから、品質の良し悪しは手で触っただけで分かるようになりました。
編み機200台まで拡大!ウール素材で大ヒット、急成長の1980年代
─お父様の時代はどのような展開をされていたのでしょうか?
当初は他社ブランドの製品を製造していましたが、父はものづくりを熟知していたし、特に編立は得意だったので、自社商品で勝負したかったのでしょう。創業から10年ほど経った1980年代頃、綿混やナイロンが主流だった中で、ウール混など様々な素材を提案してカタログ通販などで大ヒットしたんです。
父は売れると分かったらすぐに機械を購入してしまう人で、メーカーさんに相談して専用機械を作ってもらい、納期最優先で商品を作る体制を整えていました。20年前には編み機が200台もあったんです。奈良県内でも10番目以内に入る規模まで成長しました。
父が手掛けた商品を商社を通じて納品していたのですが、それが好評だったことで、お客さんは多種多様な商材を求めているということが分かったんです。そこで自社企画商品を売る機会を増やしたいという想いでスタジオ・ポアックという卸会社を立ち上げました。様々な商品を選んでいただきたく、3足千円という売り方を始めました。これは今でこそ当たり前ですが、当時は革新的なアイデアでした。また、雑誌に掲載されているようなトレンド商品を2週間で店頭に出すという驚異的なスピードで、ルーズソックスなどのブームに素早く対応していたんです。
─辻本様は社会人になられて、そのまま入社されたんですか?
はい。最初は物流担当として各工程を経験しながら、靴下がどうやって作られているのかを一から学びました。
印象深いのは、京都の新京極にあった靴下専門店での経験です。通常は週に10足、20足売れれば良い方なのに、そこは200足、300足売るんです。学生さんに人気の名物女性店主がいて、学生さんから「こんなのないの?」と言われると私に電話をかけてきて「週末に来なさい」と言うんです。
週末に要望を伺いに行くと、当社にはない商品が欲しいと言うんですね。それでも「来週待ってるから」と言われるんです(笑)。かろうじて50足作って納品しましたが、工場の方からしたら、50足でも1000足でもかける手間暇は変わらないんですよ。編み立てには半日は必要ですし、その後の作業は通常で一週間かかるところを、どうにか急がせて納品する。そんなことを2年間続けました。
─それが後の事業展開につながったのですか?
まさにそうです。がむしゃらでしたが、お客さんが欲しいものにピッタリ合うとこんなに売れるんだということを実感しました。何回もトライして、いいものにたどり着くまで諦めないことで、「旬」の商品をお届けできると学びました。
コロナ禍の偶然が生んだ2つの出会い、事業多角化への道
─事業が大きく転換したきっかけを教えてください。
コロナの打撃は大きかったですが、靴下は日用品なのでどうにかやれてはいました。それでも「靴下だけでいいのか」と考えてマスクを製造したりしました。
コロナで中国やベトナムに行けなくなって、国内の展示会を回っていた時に、たまたま呉服屋さんと出会ったんです。マスクを製造していると話したら「暇だから遊びに来て」と言われまして、実際に伺ってみると、その呉服屋さんはコロナ禍にも関わらず非常に繁盛していました。聞けば記録的な売上を上げているとのことで、富裕層のお客さんが百貨店に行けない分、その呉服屋さんでお買い物をされていたんです。
高級な商品を求めるお客さんに合わせた靴下が欲しいとご要望いただいて、3000円、4000円のシルクの靴下を作ってみたら、本当に売れるんです。試しにシルクのシャツも作ってみたら1万2000円で200着売れましたね。
従来の単価の倍以上になる世界があることを知って、こういう引き出しをどれだけ持てるかが重要だと感じました。
─その後、さらに事業が広がっていったのですか?
事業の方向性を大きく変える出会いというのは本当にあるんですね。京都にあるお土産卸会社の営業の方との出会いがまさにそれでした。靴下の取引をさせていただいていたのですが、その方が辞められる際に、「ポアックさんだけは大切にしてあげてください」と社内で強く推薦してくださったんです。
靴下の取引を継続していたのですが、ある時突然「ぬいぐるみはできますか?」と打診をいただきました。未経験でしたが、これは次のステージに行けるチャンスだという直感がありました。コロナで渡航制限がある中、中国で製造することになりました。現地で専属のデザイナーをつけてもらってリモートで開発に挑戦しましたが、コミュニケーションを図るのは本当に難しかったですね。試作を繰り返した甲斐あって、初回で3000万から4000万円の売上を実現できたんです。
その営業の方の一言がなければ、今の当社の多角化はありませんでした。人とのつながりの大切さを改めて実感した出来事です。
そんな経験もあり、現在は靴下だけでなく、ぬいぐるみ、カバン、ビーチサンダル、樹脂製のサンダル、ヘアバンド、サウナハット、吸水キャップ、アイマスクなど、本当にいろいろ作っています。
「反応の早さに驚き」Big Advanceでマッチング成功
─Big Advanceを使われた印象や成果について教えてください。
商談のお申し込みをいただいたり、成約まで至ったケースもありますし、今、まさに納品する企業さんがあります。最も印象的だったのは反応の早さです。通常、エントリーしてもなかなか返答をいただけないことが多いのですが、Big Advanceでは一定期間内に大体お返事をいただけます。
金融機関の方が気にかけてくださるので、それが一番の安心材料ですね。僕らも取引相手がどういう方か分からないし、相手の方も当社のことが分からないでしょうから。
また、金融機関のサポートがあることで信頼関係を築くきっかけにもなります。実際に「この会社と取引したいが方法はないか」と担当者に相談したところ、他の金融機関との連携で紹介していただけました。こうしたサポートは他のシステムでは得られない価値だと思います。
─印象に残っている企業とのマッチングはありますか?
大阪のネット販売会社との出会いが印象的です。初回訪問ですぐに商談がまとまり、先方にも「靴下は扱っていなかったが、こんなに豊富なラインナップがあるとは」と驚かれました。
納品後には「さらに展開できる」ということで、当社商品をモデルが着用した販売ページまで制作していただける話が進んでいます。年商5〜6億円規模の企業ですが、やはり多様な商材を扱えることが売上拡大の鍵だと実感しています。

(左:大阪商工信用金庫 今里氏 中央:辻本氏 右:大阪商工信用金庫 喜多氏)
「しんどい時こそ正直に」糸のようにつながる信頼関係の築き方
─これまでのご経験を振り返って、大切にされていることは何ですか?
最後まで諦めずにやり続けることと、嘘をつかないことです。諦めなければ必ず結果は出ますし、正直でいれば嘘を重ねる必要もなく、気持ちも楽になります。
困難な時期も包み隠さず状況をお伝えするようにしています。しんどい時に正直にお話しして「そんな会社とは取引できない」なんておっしゃられる取引先はありませんよ。「大変ですね、ここは協力しましょう」と手を差し伸べてくださいます。それは当社も同じ姿勢で、持ちつ持たれつです。誠実にお伝えすることが、真のパートナーシップにつながると考えています。
─今後の事業展開について教えてください。
まずは販売先の拡大が最優先です。仕入れ先の開拓は目処が立ってきたので、今度は販路を数社増やして経験を積み、全社体制で本格展開するタイミングを見極めたいと思っています。
靴下づくりと同じですね。靴下は一本の糸から生まれ、多くの人の想いと技術でつながって完成します。当社も同じです。父が始めた一本の糸から、50年かけて様々な人とのつながりで今があります。これからも人と人をつなぐ糸を大切に織り続けて、お客様、取引先の皆様との絆を深めながら事業を発展させていきたいと思います。
<会社情報>
株式会社スタジオ・ポアック | |
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所在地 | 奈良県天理市西長柄町670 B棟(物流センター) 大阪市天王寺区上本町六丁目9番10号青山ビル本館507号(本社) |
設立 | 1994年7月 |
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※情報と肩書は取材当時のもの |