鹿児島発・合同会社ethicalT.が開発
火山灰シラス土壌改良材がクラファンで注目

上原代表のお父様が30年前に設立した会社(豊和直株式会社)と連携する形で2024年5月に新たな挑戦を始めた合同会社ethicalT.。工業材料として使われていた素材を有機栽培にも対応したバイオスティミュラント土壌改良材として新用途開発し、持続可能な農業への貢献を目指す同社の取り組みと、創業を支えた出会い、そしてクラウドファンディングを活用した認知度向上への挑戦について、上原代表にお話を伺いました。
合同会社ethicalT. 代表 上原 直子様
豊和直の技術を活かし、分社化で挑む次世代のものづくり
ー御社の事業内容と設立の経緯を教えてください。
当社の元の会社(豊和直株式会社)は父が30年前に設立して、鹿児島の地域資源である火山灰の「シラス」を使って「シラスバルーン」というものを作っている会社を営んでいます。私は経理担当としてスタートし、その後は様々な業務を担い、事業を支えてきました。
シラスバルーンは、もともと1970年代に産業技術総合研究所九州センター(当時:通商産業省工業技術院 九州工業技術試験所)が基礎技術を開発し、国有特許を取得したものです。その後、鹿児島県工業技術センターや県内の企業・大学が連携して技術の実用化がすすめられ、当社ではその技術を活かして、建築用の軽量材や断熱材、耐熱材として建築材料などの工業材料のメーカーとして事業をしてまいりました。
父を中心に固化技術の開発が進むなか、20年程前からは売り上げ全体の1割ほどになりますが、シラスの持つ機能を活かしたエコクレンザーや角質ケア用品といった生活用品の開発・ブランディングにも取り組むようになりました。そして2024年5月、この生活用品とバイオスティミュラント(※)土壌改良資材事業を分社化する形で合同会社ethicalT.を立ち上げました。
※植物や土壌の自然な力を引き出し、非生物的ストレス(高温や長雨、干ばつ、日照不足など)に強い植物を育てる、注目の最新農業技術(出典:https://ethical-t.com/products/origin-geo/)
コロナや燃料価格の高騰など、この数年は大変な状況が続いていましたが、今後も元の会社や地域の皆さまと連携し、新たな価値を生み出しながら前へ進んでいきたいと考えています。まだ知られていない様々な機能があるので、希少性や付加価値といった魅力をアピールしながらブランディングをして販売していこうと思っています。
地域資源「シラス」の可能性を探る新商品開発
ー新商品「オリジンジオ®」について詳しく教えてください。
「オリジンジオ®」は、工業材料として製品化されたシラスバルーンを、土壌改良材として使う商品です。シラス自体は今までも園芸資材として使われていましたが、私たちの製品は少し違います。シラスに約1,000℃の熱を加えてシラスバルーンというものを作るのですが、顕微鏡で見ると風船のように膨らんだ形に見えます。中空でバルーン状になっているため、軽くて通気性が良く、断熱・耐熱効果もあります。
一般的な土壌改良材は土壌全面に散布して混ぜて使うのですが、私たちの製品はバイオスティミュラント資材で、植物の根元に使います。これを使うと根貼りが良くなり、細かい根が出てきて表面積が大きくなり、水分や養分の吸水率の向上が期待できます。
何度も使用しなくても生育初期に少ない量で効果が期待でき、植物自体を元気にして健康な成長をサポートするものです。
ー御社の製品販売についてはどのような展開を考えていらっしゃいますか?
これまでの会社は商社さんを通してメーカーとして製品を販売していました。展示会や商談会では、実際にお客様とお話しする中で多くの気づきがあり、日々学びを得ています。今後も、弊社のものづくりの姿勢や目指す方向に共感していただける出会いを大切にしながら、確かなつながりへと育てていきたいと思っています。
「オリジンジオ®」についても、まだ本格的に販売ができていない状況ですが、農家さんや農協さん、商社さんやホームセンターさんなどが来場する農業に特化した展示会に出展を計画し、販売につなげていければと思っております。
辛い時期も出会いが背中を押してくれた
ー創業時に転機となった出会いがあったそうですね。
金融機関の担当者の方との出会いですね。会社立ち上げの前からなので、この1年ぐらいのお付き合いです。
元の会社も大変でなかなか売上が上がらない状況の中でしたが、私が新しい会社を立ち上げて別でやろうと考えたときに、創業支援の相談窓口が鹿児島市にもあるということを見つけて相談に行ったのがきっかけです。
経理の経験はあっても、経営者というのは初めてですし、ゼロから色々なことをご相談したいと思っていました。本当にたくさんのアドバイスをしてくださり、しっかり寄り添っていただいて背中を押してもらいました。
本当に涙が出てくるぐらい感謝しています。この方がいらっしゃったからこそ、ここまで来ることができたと思っています。
クラウドファンディングで認知度向上を目指す
ークラウドファンディングに取り組まれた背景を教えてください。
土壌改良材の新商品をもっと多くの方に知っていただこうという情報発信と、資金調達も含めて、クラウドファンディングにチャレンジしました。
Big Advanceのクラウドファンディング(※)では、なかなか事前の宣伝広告がうまくできなかったり、準備のための十分な時間が確保できなかったこともあり、あっという間に期間終了を迎えました。
※一部金融機関ではCAMPFIRE社と連携してクラウドファンディング機能を提供しています
ークラウドファンディング実施後、何か変化はありましたか?
クラウドファンディングの後に、プレスリリースを出してくださる会社さんからご連絡をいただいて、リリースを出すことができました。それがきっかけかはわかりませんが、インスタグラムの過去30日の閲覧数がぐっと増えました。今までは閲覧数が200回ぐらいだったのが一気に4000回近くまで増えましたね。
人を惹きつけるこだわりのデザイン
ー商品のパッケージがとても素敵ですが、どのように作られたのですか?
中小企業を支援している機関から、最初にウェブデザイナーさんをご紹介いただいて、その方と仕事をされているパッケージデザインの方とつながることができました。
それまでは印刷会社さんに一生懸命要望を伝えていたんですが、なかなかイメージ通りにならず困っていました。でも、デザインの専門家の方に相談させていただいたところ、私たちの想いがしっかりと形になったんです。
その効果は絶大で、展示会や催事では「これは何ですか?」「おしゃれですね」「かわいい!」と言って、たくさんの方が立ち止まって商品を見てくださいます。商品を知っていただくきっかけとしてデザインが重要だと考えていましたが、本当にデザインの力で人を惹きつけることができるんだと実感しています。
環境に配慮した商品を多くの人へ
ー今後の展望について教えてください。
今まで苦しい状況が続いていましたが、新しい商品が形になったので、多くの方に知っていただき、使っていただきたいと思っています。
特に「オリジンジオ®」については、農家さんに使ってみていただきたいです。環境に配慮した有機栽培なども視野に入れて、環境負荷を与えずに美味しい作物を育てたり、農家さんに収益を得ていただけるような、本当に喜んでいただける資材として使っていただけるように努力していきたいと思います。
<会社情報>
合同会社ethicalT. | |
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所在地 | 鹿児島県鹿児島市東佐多町1669 |
設立 | 2024年5月 |
URL | |
※情報と肩書は取材当時のもの |