2026年07月02日

「鹿児島の農産物を全部、クラフトビールにしたい」
ひふみよブリューイングの挑戦

鹿児島市新屋敷町の住宅街の一角に、小さなクラフトビール醸造所があります。桜島大根を使ったエール、規格外のピーマンで仕込んだ黒ビール、小みかんを丸ごとアップサイクルしたチリビール。「ひふみよブリューイング」が生み出すクラフトビール(税法上の発泡酒、以下同じ)は、鹿児島の農産物の豊かさをそのままグラスに注ぎ込んだような、ここにしかない個性を持っています。クラフトビール事業の責任者・篠原祐介氏に、モノづくりの哲学と、鹿児島という土地への思いを聞きました。

ひふみよ株式会社 取締役 CFO / 酒造事業 GM 篠原 祐介 様

お酒好きが導かれたクラフトビールの世界

2022年、鹿児島にクラフトビール醸造所「ひふみよブリューイング」が誕生しました。多品種少量生産をコンセプトに、鹿児島の風土や文化を表現したクラフトビールを醸造しています。

クラフトビール事業の責任者・篠原氏は、大手製造メーカーで財務・税務を担当し、東京、大阪、そして海外で税務訴訟や外国為替のトレーディング業務に携わってきた人物です。ブリュワリーとは縁遠い世界からの転身。そのきっかけは、コロナ禍でした。

「インドネシアに4、5年滞在していたのですが、2020年のコロナ禍でインドネシアも国際定期便が運休するという事態になりました。急遽帰国し、故郷である鹿児島に引っ越してきたのを機に、何か新しいことをしたいと思い立ち、自分で事業を立ち上げるなどしていたんです」

オープンしたてのひふみよブリューイングに客として通い始め、2023年には、クラフトビール事業の責任者として正式に着任します。始まりは、あっけないほどシンプルでした。

「毎週通っていて『これ結構美味しいな』と思って飲んでたら、当時、店頭に立っていた代表から直接誘われました。どうやら労働力が欲しかったみたいで(笑)。単純にお酒が好きだったので、やってみたいなと思って」

そう軽やかに話す篠原氏。その後、生産者との連携や商品開発を次々と推し進め、醸造所の製造量は着任当初の倍以上に成長させました。財務・経営のプロとしての知見と、お酒への純粋な愛着が、この小さな醸造所でひとつになっています。

週1新作!やったことのない素材に、ひたすら挑む

2022年の始動以来、ひふみよブリューイングが手がけたクラフトビールは150種類以上。多品種少量生産を意味するHMLV(High-mix Low-volume)をコンセプトに、5つのタンクで同時に5銘柄を醸造できる体制を整え、週1本ペースで新作を生み出し続けています。

「やったことのない素材、まだ眠っている素材、みんなが見たことのないような素材をどんどん使って、どこまでクラフトビールにできるかを探しにいく感じです。どんな素材でもできると思う。できてないところ、空白のところに対してどこまでできるかを探る。それが楽しくて」

試行回数が多いからこそ技術の蓄積も速く、1本の決まったレシピをずっと作り続けることはほぼないそうです。「毎回毎回が変化」という言葉が自然に出てくる醸造所です。

生産者を一軒一軒まわって。
規格外の農産物から生まれるクラフトビール

篠原氏が力を入れてきたのが、鹿児島の生産者との連携です。規格外や流通に乗りにくい農産物を直接買い取り、クラフトビールの副原料としてアップサイクルする取り組みを、ほぼゼロから立ち上げました。桜島大根、東串良町のピーマン、さつま町の小みかん──鹿児島各地の生産者のもとへ自ら足を運び、一軒一軒関係を築いてきました。

「生産者の方々に説明するんですけどね、皆さん『よくわかんないけどせっかく来てくれたんだし、なんか欲しいんだったらあげるよ』という反応です。それで僕がクラフトビールにしてお返しすると、そこでようやくわかってもらえる感じです。『こういうことがしたかったんだね』って。皆さんそんな感じです。わかんないけど買わせてくれるのが、鹿児島の人なんです」

理屈抜きに受け入れてくれる、そんな鹿児島の人の気質が、この取り組みを支えています。その鷹揚さを、篠原氏は鹿児島という土地の気質だと言います。

「地理的な特性、文化的、歴史的背景に裏打ちされたものだと思います。訪問されたことに対する謝意、ウェルカムな気持ちがとても強い土地。鹿児島だからできた、鹿児島じゃないとできなかったと思います。多分、他の地域では、なかなかこうはいかないんじゃないかな」

そうして生まれた一杯が、世界に認められました。さつま町特産の香辛料「ひらめき」を使った「オレンジノイナズマ」です。「ひらめき」は小みかんの皮を使った香辛料で、果肉や果汁は通常廃棄されます。「オレンジノイナズマ」ではその果肉や果汁もビールに活用。小みかんを丸ごとアップサイクルした一本が、2025年の世界4大ビール品評会「インターナショナル・ビア・カップ」Chili Beer部門で最高位の金賞に輝きました。

インターナショナル・ビア・カップ2025 Chili Beer部門 金賞受賞「オレンジノイナズマ」。 さつま町産の小みかんをアップサイクルした一本。 ラベルデザインは障がいのある方々が手がけ、唯一無二のビールを、唯一無二のアートが彩ります。

出会いとつながりは、鹿児島のスペシャリティ

篠原氏は鹿児島の生まれです。ただ、若い頃は地元をそれほど好きではなかったと言います。

「僕が子どもの頃に思っていたように、鹿児島の若い子は、鹿児島のことをあまり好きじゃないと思うんです。でも、いろんなことを経験して、いろんな場所に住んで帰ってくると、全然違う様相があって。面白い人たちが、鹿児島で生き生きと生活している。そこに会えると、なんかもう全然違う鹿児島が見えてくるというか、むしろ異様に素晴らしい土地なんじゃないかなと思いましたね」

東京では何人もの仲介を経てようやく会えるような人が、鹿児島ではあっという間につながっていくそうです。

「鹿児島では、誰々の紹介だから会う、それだけで、ものすごい速さで繋がっていくので。自分が話を聞いてみたい方や、自分の挑戦に対して興味を持って頂ける方々がものすごい勢いで繋がっていく。これは本当に鹿児島のスペシャリティだと思います」

コロナ禍という予期せぬ帰郷が、篠原氏に故郷の魅力を再発見させ、今のひふみよブリューイングでのモノづくりへとつながっています。

鹿児島の農産物を、全部クラフトビールにしたい

今後の展望を聞くと、篠原氏はこう答えてくれました。

「鹿児島にあるもの全部やりたいくらいの気持ちで。鹿児島の農産物の豊かさがちゃんと伝わるようなモノづくりをしていきたいですし、楽しい輪を広げる方法を、常識に捉われずにあの手この手で考えていきたいなと思っています。その過程で、会社の本業である福祉事業と深く連携して、クラフトビールというモノづくりの輪も大きくしていければ嬉しいです」

新しい素材、これから出会う生産者、挑戦したいクラフトビールのスタイル。その可能性を一つひとつ形にしていく作業が、篠原氏にとってのクラフトビールです。次はパセリや三つ葉にも挑戦したいとのこと。どんな一杯になるのか、今から楽しみでなりません。

鹿児島の大地を、人を、文化を、グラスの中に込めた一杯が、今日も新屋敷町の小さな醸造所から生まれています。

<会社情報>

ひふみよ株式会社
所在地 鹿児島市荒田1-19-19 2F
設立 2015年
URL

https://hifumiyo.co.jp/

https://kagoshima.beer/

※情報と肩書は取材当時のもの
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