地方創生インタビュー vol.2
地方に朝が来た!
金融が循環機能を取り戻し、未来を拓く
年間100回の出張で日本中を飛び回り、地域金融機関と地方創生の現場をつなぐ。一般社団法人ちいきん会代表理事の新田信行氏は、金融界の第一線で培った経験を活かし、今、地域の未来づくりに奔走しています。
「雨戸を開けてごらん。もう外は朝日が昇っている」
そう語る新田氏が見据えるのは、金融機関が地域の「循環機能」として本来の役割を取り戻し、新しい地方創生が始まる未来です。地方創生において、金融機関はどのような役割を担うべきなのか。そして、これからの地域に必要なつながりとは何か。現場を知り尽くした新田氏に、地域金融の可能性と、若い世代への期待を語っていただきました。
一般社団法人ちいきん会 代表理事 新田 信行 様
一般社団法人ちいきん会とは
官庁・地方自治体・金融機関・企業・大学等の多様な志の高い個人が集まり、組織や肩書に縛られない対話を通じて、社会に新たな価値を提供する組織として、2022年2月に設立。全国の地域金融機関とのダイアローグを重ね、本業支援、ローカルゼブラ、地域通貨など、新しい金融のあり方を探求。「現場を知る」ことを重視し、理論と実践を橋渡しする活動を展開している。
国と地域をつなぐ、現場を知る強み
―新田さんは年間100回も全国を飛び回っていらっしゃるそうですね。地域金融の現場で、今どのようなことが求められているのでしょうか。
相変わらず日本中を飛び回っています。これだけ出張していると、日本各地の現場の状況がよく見えてきます。2025年4月に出版した本『人と絆の金融: よみがえる金融2.0』の反響もあり、この半年は出版記念を兼ねた講演依頼が多くありました。
この本は、私が各地で講演した内容をまとめたものです。ほとんどが地域金融機関や財務局、経済産業局、経営者の会から「こういう話をしてほしい」と依頼されたテーマなんです。第1章は若手の離職防止や人事評価など人事周りの話、第2章は不良債権への対応や融資担当者の教育、第3章は地方創生に関わる内容。つまり、現場が本当に困っていることを集約した本となっています。
―現場の声を直接聞けることが、新田さんの強みですね。大学の先生やコンサルタントとは違う立ち位置だと感じます。
そうですね。大学の先生やコンサルタント、役所の人は実際に現地に行く時間が取りづらい方もいらっしゃいます。国が作る基本指針を現場でどう実践すればいいのか、また、現場の声をどう国に届けるか。私のような橋渡し役が必要なんです。
人事制度や本業支援について理屈で語るのではなく、「北海道のあの信用金庫ではこんな取り組みをしていますよ」「九州のあの銀行の事例が参考になりますよ」と、具体例を示せます。こうした実践的な話が各地で求められているんです。

「雨戸を開けてごらん」、地方に朝が来た
―全国を回る中で、活気のある地域とそうでない地域を数多く見てこられたと思います。その違いはどこにあるのでしょうか。
都道府県によっても違いますが、端的に言えば、違いは姿勢です。外向きで開かれて、若い人たちが活躍できている地域は前に進みます。一方で、年配者が「若者、よそ者は黙っとれ」と押さえつけ、既得権益を守ろうとしているところは難しい。これは金融機関だけではなく、行政も地域全体も同じです。
―今はちょうど世代交代の時期なのでしょうか。
まさに今、入れ替わりの時期です。10年前と比べると、随分新しい芽が出てきました。まだら模様ですね。活気がある地域は50歳以下の人たちが元気です。
先ほど紹介した本の表紙は日の出の写真にしました。みんなに「朝が来たぞ」と伝えたくて。暗い暗いと言っているのは、雨戸を閉めているから暗いんです。雨戸を開けてごらん。もう外は朝日が昇っていますから。
私はむしろ明るく感じています。やっとここまで来たか、と。失われた何十年がようやく終わり、新しい世代がのびのびやれる時代が来たと感じています。
返すお金と返さないお金、「PL型金融」の可能性
―地域通貨「eumo(ユーモ)」など、新しい形のお金の流れにも関わっていらっしゃいますね。従来の銀行融資とは違う、新しい資金の流れとはどういうものなのでしょうか。
eumo(※1)だけでなく、いろいろなところで地域通貨に関わっています。この10~15年で、新しい形の資金の回り方がたくさん出てきました。
どういうことかというと、地方では商店街が衰退し、地域内で資金が回る仕組み、商店街を中心とした地域経済がなくなってしまいました。すると、別のルートで資金を回そうとみんなが考え始めるわけです。クラウドファンディング、ふるさと納税、コミュニティ財団、そして地域通貨。こうした新しい方法がどんどん出ています。
制度面でも変化があります。休眠預金――10年以上取引のない預金口座の資金を社会課題の解決に使う仕組みが2018年から始まり(休眠預金等活用法)、JANPIA(一般財団法人 日本民間公益活動連携機構)が再配分しています。これまでに300億円ほどが、認定NPO法人や公益財団法人を通じて地方に流れ、社会活動の下支えになっています。
―銀行からお金を借りる以外にも、いろいろな資金調達の方法が出てきているということですね。これまでの金融機関の支援とは、具体的にどう違うのでしょうか。
私は本業支援のポイントを3つ挙げています。
まずは、融資だけでなく、4つの金融手法を使いこなすこと。従来の金融は、デッド(借金)とエクイティ(出資)という、「いずれ返す」ことを前提とした手法が中心でした。これらは会社の資産や負債を表す貸借対照表に載るので「BS型の金融」と呼ばれます。
これに対して、私は売上支援と寄付を「PL型の金融」と呼んでいます。その年の収支を表す損益計算書に載る、返済義務のない資金のことです。
例えばクラウドファンディングには「購入型」と「寄付型」がありますし、ふるさと納税も、返礼品という商品を買う側面と、地域を応援する寄付の側面が混ざっています。売上と寄付は明確に分けられるものではなく、状況に応じて柔軟に使い分けられるんです。
赤字で苦しんでいる事業者――マイナスから0に戻そうとしている段階には、この「PL型の金融」が効きます。売上を伸ばす支援をしたり、クラウドファンディングで応援者を集めたり、ふるさと納税や企業版ふるさと納税を活用したり、コミュニティ財団と連携したり。
―残りの2つのポイントについても教えてください。
2つ目は、個別の会社だけでなく地域全体を見ること。一社だけを支援しても限界があります。地域全体でどう支援していくか、その視点で行政とも連携していく必要があります。
3つ目は、資金だけでなく、ヒト・モノ・カネ、それから情報・知的資産、すべての経営資源をつなぐ仲介役を金融機関が果たすことです。
―金融機関の役割が、融資だけではなく、大きく広がっているんですね。
そうです。これに気づいて動き始めた金融機関と、相変わらず「貸す先がない」と嘆いているだけのところでは、大きな差が出てきています。
※1 eumo(ユーモ): 「共感資本社会」の実現を目指すプラットフォーム、および共感コミュニティ通貨。お金を「貯める」ものではなく、応援や感謝として「循環させる」仕組みを重視しており、新しい金融の形として注目されている。

若い世代へ、金融は誇りある仕事
―地域金融機関で働く若い世代に、金融という仕事の誇りや可能性について、メッセージをいただけますか。
金融は主人公ではありません。主人公は事業者、実際に事業をする人たちです。金融を体に例えると循環機能です。お金は経済の血液で、その血液を回すのが金融。脳や筋肉も必要ですが、心臓と血管と血液も絶対に必要です。
地方創生でうまくいっていないところは、血液が流れていません。金融がその役割を果たせていない。それは金融の責任でもあると思います。だからこそ、自分たちの仕事の本質を理解してほしい。お金は汚いものではありません。一方で、お金だけを目的にすると、お金はただの道具になってしまいます。バブル時代の拝金主義とは違う金融を、ちゃんと理解してほしいですね。
そうすれば、こんなにやりがいのある仕事はないと思います。金融は地域にとって欠かせない、誇りある仕事なんです。
孤立から助け合いへ、新しいつながりを
―地域づくりには、人と人のつながりが欠かせないように感じます。新田さんが各地で対話を重ねているのも、そのつながりを作るためでしょうか。
その通りです。日本の社会課題の根本は、ほとんどが孤立なんです。みんな社会課題の解決と言いますが、その多くは対処でしかない。熱冷ましや痛み止めを飲ませているだけです。根本は、人の孤立、コミュニティの崩壊にあります。
だから、新しい形で一つひとつのつながりを作っていかないと、課題は解決しません。私は、日本で暮らす人々が元々持っていた助け合い、お互い様、おかげさま、という人と人とのつながりを取り戻したいんです。
―つながりを作るといっても、地域内だけでは限界がありそうですね。
地域内では、事業者、住民、金融機関、行政の4者をつなぐことが重要です。一方で、地産地消には限界がありますから、地域を超えた広域のつながりも欠かせません。他の地域や海外とも連携していく必要があります。
―新しいコミュニティを作るために、大切なことは何でしょうか。
私はソーシャルマインドとして5つのポイントを挙げています。
まずは「世のため人のため」。自分だけ良ければいいという考えではダメです。次に「未来志向」。過去を振り返るのではなく、新しい未来をどうしたいか。そして「助け合い」。共助ですね。孤立ではなく、みんなで助け合う。
4つ目は「寛容」。排他的なところは危険です。和をもって貴しとなす精神が必要です。5つ目は「実践」。知行合一です。能書きばかりを並べるのではなく、実際に汗を流さないと価値はありません。
ただし、昔ながらのコミュニティをそのまま再現すればいいわけではありません。昔のコミュニティには村八分や排他性もありました。新しいコミュニティは、開かれていて、未来志向でなければなりません。そういう新しい人のつながりを作っていきたいんです。
自然と共生する地域の未来
―最後に、新田さんが思い描く地域の未来について聞かせてください。どんな社会を目指していらっしゃいますか。
だれもが孤立せずに、助け合ってつながっている姿ですね。そして、私はどちらかというと田舎者なので、自然と一緒にいたい。土や海、お米や野菜。元々、日本にはサステナブルで、自然と共生する文化がありました。そういう持続可能な文化を大切にしたいんです。
一方で、閉鎖的にならず、海外の人たちともどんどん仲良くつながりたい。私はNPO法人の理事長として、外国人との交流も一生懸命やっています。開かれていて、活気があって、人が動いて、自然と調和している。そんなイメージです。
―人と自然とのつながりですね。
東京など都市部で暮らしている人にも、自然とのつながりは必要です。「故郷がない」という人もいますが、それなら作ればいいじゃないですか。今、一部の若い人たちはどんどん地方に行っています。定住している人もいれば、2拠点で行ったり来たりしている人もいます。
自然の中で人と接する時の方が、人は幸せを感じたり精神的に落ち着いたりします。週に1回でも、森の中でのんびりしたり、海辺で夕日を見たり。それで十分です。
ちなみに私は、タワーマンションの高層階より1階か2階、地面に近いところがいいなと思います。でもこれも好みの問題ですから。最近の私は寛容なので、自分の生き方を人に押し付けることはしませんよ(笑)。
■編■集■後■記■
「雨戸を開けてごらん。もう外は朝日が昇っている」この言葉は、地方の可能性と、若い世代の活躍を心から信じている新田氏の想いの表れです。
全国を飛び回り、現場の声に耳を傾ける新田氏の姿勢には、地域と金融機関への深い愛情がありました。金融機関が地域の「循環機能」として本来の役割を取り戻し、事業者、住民、行政とつながりながら、地域全体を支える。その先に、地方創生の新しい朝が来る。新田氏の活動は、その確信に満ちています。
<会社情報>
| ⼀般社団法⼈ちいきん会 | |
|---|---|
| 所在地 | 福島県福島市本町2-10(福島学院⼤学内) |
| 設立 | 2022年2⽉ |
| URL | |


