棚卸し改革は、経営者の「決断」から始まる
"どんぐり"だけ数えればいい!数えない勇気が現場を救う
「細切れの銅線」「バラバラのネジ」——まだ一つひとつ数えていませんか?公認会計士・斎藤先生の連載4回目は、棚卸しで疲弊しない方法をご紹介。 棚卸しの本質は「数える作業」ではなく「数えやすくする準備」と「何を数えないか決めること」。森のリスさん一家と一緒に学ぶ「棚卸しの基本5カ条」で、去年夜中までかかった作業が、今年は午前中に完了します。
*前回の「チーター君から学ぶ、限りあるエネルギー「集中力」の使い方-5つの実践テクニック-」では仕事の効率化について伺っています。こちらもぜひチェックしてみてください!
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はじめに:手を抜くために、全力を尽くす!
社長、今年もまた「あの季節」がやってきますね。そう、決算前の大仕事、「棚卸し(たなおろし)」です。
現場から「終わらない!」「数が合わない!」という悲鳴が聞こえてきたり、経理担当者が夜遅くまで電卓を叩いていたり…。そんな光景を見て、「なんでうちは毎年こうなんだ」と溜息をついていませんか?
実は、棚卸しがうまくいかない最大の理由は、「真面目すぎる」ことにあります。
「細切れになった数センチの銅線」「使いかけの消しゴム1個」「袋から出してバラバラになったネジ」
——これらを数えるために何時間も残業していませんか?
10円のネジを数えるために、時給2,000円の社員が30分かけていたら、会社は1,000円の損。これが「隠れたコスト」です。
棚卸しの本質は「数える作業」ではありません。
「 数えやすくする準備(環境づくり)」と 「 何を数えないかを決めること」なのです。
棚卸しの目的は、ただ数えるのではなく、経営に役立つように数えることです。
「手を抜くために、準備に全力を尽くす」。この逆転の発想が、御社の決算を変えます。
【1. 導入】悲しき「細切れの銅線」問題
工場や倉庫の現場スタッフは、本当に真面目です。
「棚卸しだから、在庫をちゃんと数えて!」と社長が指示を出せば、彼らは「会社にあるすべてのモノ」を数えようとします。
以前、ある製造業の現場でこんなことがありました。
若手社員が汗だくになりながら、床に散らばった「切断済みの半端な銅線」を一本一本数えていました。「これも会社の資産ですから!」と、真っ直ぐな目で。
別の会社では、事務員さんがデスクの引き出しをひっくり返し、使いかけの鉛筆や、消しゴムを、定規で長さを測りながら棚卸表に記入していました。
しかし、その「細切れの銅線」や「使いかけの消しゴム」は、決算書の利益にどれほど影響しますか?単なる端材や雑多な備品であれば、わざわざ時間をかけて数える必要はないのです。
とはいえ、現場は勝手に「数えない」という判断ができません。「もし勝手に捨てて、後で怒られたら…」と考えるのが現場スタッフの心理だからです。
だからこそ、「数えなくていい」と決めてあげられるのは、社長であるあなただけ。この号令一つで、現場の空気はガラリと変わります。
では、具体的にどうすればいいのか?
ここからは、森の中に住むリスさん一家の事例を見ながら、楽しく学んでいきましょう。
【2. 失敗編】真面目すぎるリス一家の冬支度
ある森の奥に、3匹のリスの家族が住んでいました。
パパリス(食いしん坊)、ママリス(完璧主義)、チビリス(元気いっぱい)の3匹です。もうすぐ冬。リス一家にとって、冬眠前の「食料の棚卸し」は命に関わる大イベントです。
ある日、ママリスが「さあ、今日は棚卸しよ!」と号令をかけました。
しかし、ここから悲劇が始まります。
悲劇その1:入庫が止まらない
チビリスが外からどんどんドングリや石を持ち込むため、数えている最中に在庫が増え続けます。いつまで経っても数が確定しません。
悲劇その2:出庫が止まらない
パパリスが数えているそばからクルミを食べてしまい、在庫が減っていきます。これまた数が合いません。
悲劇その3:整理整頓不足
焦ったママリスは、ドングリもキノコもパンの欠片も、全部一緒くたに木の穴に投げ込みました。穴の中はグチャグチャで、何度数えても間違えてしまいます。結局、夜になっても棚卸しは終わらず、一家はクタクタ。

そこへ、森一番の賢者「フクロウ先生」が飛んできました。
「ホーウ、ホウ。今年も随分と苦労しておるようじゃな、リス君たち」
【3. 改善編】フクロウ先生の5つのアドバイス
フクロウ先生は、涙目のリス一家を見て優しく微笑みました。
フクロウ先生は、羽を広げて「棚卸の基本5カ条」を教え始めました。
棚卸の基本 5カ条
1.数える日を決める
2.数える物を決める
3.数える日に合わせて、在庫の動きを止める
4.止めた在庫の整理整頓をする
5.①~④で準備ができたら、丁寧に数える
棚卸の基本①:数える日を決める
会社でも同じです。決算日が3月31日だからといって、必ずしもその当日にすべてを行う必要はありません。「〇月〇日は棚卸しの日!」と事前に決め、その日は通常の業務(製造や出荷)をストップする覚悟が必要です。
棚卸の基本②:数える物を決める(これが最重要!)
・ドングリ(高カロリー・保存性が高い)
⇒ 経営における「Aランク在庫」。金額が大きく、売上の要となるもの
・キノコ(たまに食べる)
⇒ 経営における「Bランク在庫」。そこそこ重要。
・菓子パン(ごく稀に食べる)
⇒ 経営における「Cランク在庫」。単価が安く、重要度が低い。
■ 経営者へのポイント!
重要性(金額×量)に基づいて、在庫をランク付けしてください。
・A品(主力商品・高額品): 1つ1つ丁寧に、実数と帳簿を合わせる
・B品(材料や低価格商品): 箱単位、袋単位で数える
・C品(消耗品・端材) : 思い切って数えない。または、目分量で「一式」
冒頭の「細切れの銅線」は、まさにC品以下です。これを数える工数は無駄です。「A品は丁寧に、B品は割り切って、C品は数えない」。このメリハリが大切です。

棚卸の基本③:在庫の動きを止める
棚卸し中に「もっと!」と外から物を持ち込むと、数が合わなくなります。
■ 実務ポイント!
基本は仕入業者に連絡し、棚卸し当日の納品を止めてもらいます。どうしても止められない場合は、検収印の日付を翌期首にし、棚卸しの対象外として別の場所に保管しておくのです。
棚卸し中に出荷したり使ったりすると、これも数が合いません。
得意先には出荷停止を伝え、事前に納品を済ませます。
緊急出荷が必要なら、エリアを分けて先に処理を済ませてから数えましょう。
棚卸の基本④:止めた在庫の整理整頓をする
1.不要なものを分ける
冬を越すのに不要な菓子パンや、腐ったキノコは先に取り除く
2.種類ごとに分ける
ドングリはドングリ、キノコはキノコで場所を分ける
3.まとめられるものはまとめる
ドングリは大切だから1個ずつ、キノコは袋単位で数える
■ 経営者へのポイント!:開封済みの箱問題
実務でよくあるのが、「開封して半分使った箱」の扱いです。
・未開封の箱: 「1箱」として数える
・開封済みの箱: ルールを決める
1.みなし出庫ルール:
箱を開けた瞬間に「全量使った(費用化)」とみなし、在庫ゼロとして扱い
2.目分量ルール :「0.5箱」とざっくり記録
3.簿外在庫ルール: 開封品は数えず、「ある」ことだけ把握
「バラバラのネジ」や「切った銅線」は、まさにこの「開封済み」の類です。
業務に支障がないなら、「開封した時点で経費」として処理し、棚卸しの対象から外してしまうのが、最も賢い経営判断です。
それでも心配であれば、棚卸し対象外にしたうえで、現場スタッフがやり易い方法で管理をしましょう。これらは、棚卸しのためではなく、業務に支障をきたさないための管理です。
棚卸の基本⑤:①~④で準備ができたら、丁寧に数える
準備さえ整っていれば、数える作業自体はあっという間です。
【4. 成功編】翌年は半日で完了!
一年後。再び冬支度の季節がやってきました。リス一家は、フクロウ先生の教えを忠実に守りました。
準備①:数える物を決める
パパリス 「よし! この『カビかけのパン』や『誰が拾ったかわからない木』は、冬越しには不要だ! 数えないぞ!」
準備②:整理整頓する
ママリス「ドングリはこっちの棚。キノコは袋に入れてこっちの棚。袋に入っているキノコは開けないでね! 開いてるやつはもう数えないわよ!」
準備③:入出庫をストップ
チビリスも我慢しました。「今日はお外から持ってこない! 荷物が届いても、それは『らいねんぶん』だから、こっちに置いておくね!」
いざ、数え始めると……。
「ドングリ、100、101……はいOK!」
「キノコ、未開封の袋が5つ……はいOK!」
なんと、去年は夜中までかかっていた作業が、お昼前には終わってしまったのです。
「やったー! 終わったー!」
一家は大喜び。浮いた時間で、みんなで温かいお茶を飲みながら、ゆっくりと冬越しの計画を立てることができました。
パパリス 「手を抜くっていうのは、サボることじゃないんだね。大事なことに集中するために、どうでもいいことを捨てる勇気なんだね」
ママリス 「綺麗に片付いているから、何が足りないかすぐにわかるわ。これで安心して冬が越せるわね」

【5. まとめ】経営者の皆様へ
リスさん一家の物語は、そのまま御社の倉庫や工場に当てはまりませんか?
棚卸しは、単に「在庫の金額を確定させる」だけの作業ではありません。「自社の資産の中身を見直し、筋肉質な経営体質に変える」絶好のチャンスです。もし、社員さんが今年も「細切れの銅線」や「消しゴム1個」を必死に数えていたら、社長であるあなたが声をかけてあげてください。
「それは数えなくていいよ」
「開封した箱は、もう『使った』ことにしていいよ」
「大切なAランク商品だけ、しっかり数えよう」
その一言が、現場の疲弊を救い、無駄なコストを削減し、会社の利益を守ります。今年はぜひ「捨てる勇気」「数えない決断」を持って、現場に指示を出してみてください。
【明日からできること】
まずは、経理担当者や現場責任者と、こんな会話から始めてみてください。
「今年の棚卸しで『数えなくてもいいもの』を決めよう」
「数える前の整理整頓に、時間をかけよう。それが一番の時短になる」
たったこれだけの決断が、現場の皆様の負担を劇的に軽減し、貴社の利益を最大化する第一歩となります。
さあ、まずは倉庫の隅っこにある「いつか使うかもしれない謎の部品」を捨てるところから始めてみませんか?
リスさん家族の棚卸要項(マニュアル)

森のリスさん一家も、フクロウ先生の教えで棚卸しが半日で完了しました。現場は真面目です。だからこそ、「数えなくていい」と決めてあげられるのは、社長であるあなただけ。明日、経理担当の方に「C品は数えない」「開封済みは経費にする」と伝えてみてください。経営者の一声が、現場を救い、隠れたコストを削減します。次回もお楽しみに!
原画/ココペリ・黒沢禎富
<会社情報>
| 斎藤勇樹公認会計士事務所 | |
|---|---|
| 所在地 | 神奈川県川崎市幸区 |
| 設立 | 2025年2月 |
| URL | |
| ※情報と肩書は取材当時のもの ※一部画像を、Google Geminiで生成しています。 |
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