水だけで磨く!新技術の誕生秘話
株式会社夢職人の歯磨き革命

20年以上前、趣味の洗車での素朴な疑問から独自のミネラルコーティング技術を開発し、「水だけで歯磨きが出来る歯ブラシ」を実現した株式会社夢職人。1日7本の実演販売から始まり、テレビ出演を機に3か月待ちの人気商品へと成長させ、業界初の千円の歯ブラシでプレミアム市場を切り拓きました。2024年には舌で磨き残しが分かる「歯磨きコーチ」を発売し、大阪・関西万博への出展も果たしています。常に革新を追求し続ける創業者の辻氏に、開発の軌跡と22世紀まで続く「本当の商売」への想いについて伺いました。
株式会社夢職人 代表取締役 辻 陽平 様
風呂場でのひらめきから生まれた画期的歯ブラシ開発秘話
─現在の事業に至った経緯を教えてください。
当社は独自のミネラルコーティング技術で「水だけで歯磨きが出来る歯ブラシ」の製造・販売を行っています。この技術の原型は20年以上前に私がサラリーマン時代に趣味で行っていた洗車から生まれました。週末に子どもたちと洗車してワックスを塗っていたのですが、「油脂を車に塗って綺麗に保つのはいいけれど、効果がなくなるということは環境への負荷になっているな」とふと思ったんです。丁度ハイブリッド車が誕生し、ミネラルウォーターにお金を出すのが当たり前になった時代で、「ミネラルで車を綺麗に出来たらいいんじゃないか」という、本当に何の根拠もないことを思いついたのが始まりです。
─そこから歯ブラシに辿り着いたのはどのような経緯だったのでしょうか?
最初は車のコーティング剤として開発しようとしていましたが、自動車業界への参入は厳しく断念しました。そこで、たこ焼き屋の鉄板に塗らせてもらったり、お風呂の浴槽に試したりと、片っ端からいろんなものにコーティングしました。そんなある日、お風呂上がりに鏡を見ながら歯を磨いた時に、「歯ブラシは良いかも」とひらめいたんです。お風呂だったら一家に一つですが、歯ブラシなら一人一本なので、チャンスがより広いと思いました
「歯ブラシが千円!?」プレミアム歯ブラシ市場を切り拓いた挑戦
─商品化に向けてはどのような苦労がありましたか?
最初の試作品は1週間で効果が無くなり、商品として備えるべき耐久性がないことに気がつきました。一度そこで挫折したのですが、その後、子どもと砂遊びをしている時にヒントを得ました。指紋の間に細かい砂が入るとなかなか落ちないけれど、石ころを触るとパッと落ちる。「ミネラルの粒子を細かくすれば、もうちょっと持つんじゃないか」と思って、超微粒子化の技術に着手しました。猛勉強の末、非常に細かい粒子にすることに成功し、効果の持続期間が1か月まで延びました。歯ブラシは毎月交換を業界団体が推奨しているので、業界水準を満たすことが出来ました。
─価格設定で苦労されたそうですね。
私としては600円ぐらいで売りたいと考えていましたが、出資者の方から「千円じゃないか。東京には千円ぐらいのオシャレなものを贈り物にし合う文化がある」と言われ、プレゼント用の高級歯ブラシとして開発を進めました。しかし実際に小売店に営業に行くと「歯ブラシが千円! 安いアパレルショップでジャケットが5万円のような感覚だよ」と厳しい反応でした。こだわったパッケージも「中身が見えない。これを見て誰が歯ブラシだと思って買うんですか?」とご指摘をいただきました。当時は千円の歯ブラシなんて存在しなかったんです。
1日7本の販売から3か月待ちの商品へ
─東急ハンズでの販売開始はどのような経緯だったのでしょうか?
サラリーマン時代のご縁で商品を置かせていただきましたが、まったく売れないんです。商品が微動だにせず、触れてもいただけない状態で、これは何とかしなければと実演販売をさせてもらうことにしました。 朝11時から夕方6時まで、売場の端っこの机で一日中説明していましたが、最初は全然売れませんでした。一日で7本しか売れなかった時、担当の方が「よく7本売れたね。向こう1年で84本売れるチャンスが今日出来た。すごいことじゃない」と励ましてくれました。その言葉で「今日84本の種を蒔いたんだな」と気持ちが楽になりましたし、商売の本質を教えられた気がしましたね。
─テレビ出演で大きな転機があったそうですね。
徐々にいろんなお店に置いていただけるようになった頃、土曜日の朝の情報番組に取材されました。番組終了後に会社に行くと、ファックスが壊れているかと思うぐらい注文書の紙が出てきていて、電話も鳴りっぱなし。電話回線が1本しかないので「全然電話に出ない」と怒られながら夕方まで対応しました。オンラインショップもアクセス集中でサーバーが落ちたり立ち上がったりの繰り返し。すべての注文をこなすのに3か月かかりました。
─業界での評価はいかがですか?
当時は誰もやっていなかったことなので、業界の中では「夢職人は18年前に歯ブラシ千円という価格帯を切り拓いた」「プレミアム歯ブラシの市場を作ったのは夢職人だ」という評価をいただいています。
パイオニアであるということは非常に重要だし、度胸がいることでした。ある意味、無知でないと出来ないことだったと思います。
舌で分かる磨き残し!2024年新発売「歯磨きコーチ」革命
─2024年に発売された新商品について教えてください。
18年間やってきて気がついたのは、歯を磨いてツルツルしていない箇所は磨き残しだということです。これってすごい提供価値じゃないかと考えました。 どうして虫歯になるかというと、2週間ぐらい同じところを磨き残し続けるからなんです。つまり、どんな歯ブラシを使うかよりも、どう使うかなんですよ。歯垢染色剤で赤く染めたら磨き残しはわかると思うんですが、歯垢染色剤を毎日使おうと思っても続かないですよね。 この「歯磨きコーチ」を使うと、舌でなめた時に「ツルツルになった」「まだザラザラしている」というのが分かるんです。ザラザラしているところが磨き残しなので、そこだけもう一度磨けばいい。これで皆さんが歯磨きを自学自習することが出来ます。 歯並びや歯の大きさ、歯磨きをする手の動かし方が一人ひとり違うので、最適な歯磨き方法は人によって違うんです。今まではどんな形状の歯ブラシなら磨きやすいかということを提供してきましたが、そうじゃない。どう使うかなんです。
─既存商品の活用範囲も広がっているそうですね。
例えばトラベル歯ブラシ。水だけで磨けるうえ、軽量なので、アウトドアが趣味の方や客室乗務員の方にファンが多いです。本質的なことを追求しているので、こだわりのある方から評価いただけるのは嬉しいですね。
─子ども向けの商品についても教えてください。
キッズ用は人形型の全身をした可愛いデザインで、頭に帽子をかぶっています。この帽子は取り外し可能で、喉を突かないための安全装置の役割を果たしています。保護者の方が仕上げ磨きする時は帽子を外せる構造になっているんです。 実は子どもが噛むことも前提にして設計していますし、子どもが掴みやすい厚みにもしています。 見た目の可愛さで「歯磨きが嫌じゃない時間」にしてもらう。保護者の方と一緒に練習して、歯磨きの時間を楽しい時間にしてもらいたいんです。
万博出展で見えた未来。「夢の歯ブラシ」への想像以上の反応
─大阪・関西万博への出展について教えてください。
万博には「夢の歯ブラシ」として出展させていただきました。ロハスフェスタの企業出展の募集があって、ギリギリのタイミングで出展が決まりました。
実際に万博に行ってみて感じたのは、来場者の反応が想像以上に良かったことです。未来の歯ブラシということで興味を持ってもらえて、その場で購入してくれる方が多くて驚きました。 これを見て感じたのは、現代の人間の情報への向き合い方です。情報が溢れている時代だからこそ、人々は簡単には信用しない。でも実際に自分の目と耳で確かめたものには、素直に反応してくれるんです。 情報社会では又聞きの情報ばかりが先行しがちですが、本当に良いかどうかは自分で判断することが大切です。そういう努力を常にしていかないといけないと改めて実感しました。
「顧客×顧客」の掛け算で拡がる販路開拓
─販路拡大についてはどのような取り組みをされていますか?
ものを作って顧客に責任をもってお届けすることにこだわりがあるのですが、販路はもっと面白い展開も出来るのかなと認識を改めました。
実は、日本酒メーカーさんで化粧品を作っているところがあって、そちらの通販でずっと当社の商品を売っていただいています。日本酒を使った化粧品を売りながら、サブアイテムとして当社の商品が売られているんです。
─今後はどのような業種との連携を検討されていますか?
食料品の通販をされている企業とは相性がいいと思います。例えば、パティシエの方は試食で砂糖が口に残って虫歯リスクが高いので、そうした経験から「お菓子と一緒にこの歯ブラシをいかがですか?」という提案が出来ます。宅配事業者なら各世帯への配送ルートを活用して、お互いウィンウィンの関係を築けると思います。
コロナ前までは、顧客の囲い込みを一生懸命やっていたんですが、コロナでそれが叩きのめされました。当社も百貨店や東急ハンズで売っていれば盤石だったのに、緊急事態宣言で全部閉まってしまった。こんなことが起こるんだなという不可抗力を経験しました。
それからは「顧客×顧客を掛け算してビジネスしていく」ということが、アフターコロナで必要なのかなと思っています。今までは自分のところの母数でやっていたところを、母数掛ける母数で展開していく形に変えていこうと考えています。
「歯磨きコーチ」100年かけて全国普及の壮大ビジョン
─今後の展望について教えてください。
2024年に発売した「歯磨きコーチ」は、次の10年をやっていける商品を作ろうということで開発しました。
100万本ペースで出しても全国みんなが使うのに100年かかります。つまり、10年間は問題なく売り続けられるだろうと。うちの会社の規模だったら、この「歯磨きコーチ」を皆さんに提供して、人生に1本ずつ買っていただいても、やり続けられる仕事です。
─社長の人生観についてお聞かせください。
私はよく「人間は死ぬために生きている」と言うんです。死ぬことが決まっているんだから、死ぬまでの間に自分が生きた証をこの世に残すために生きているんじゃないかと。日本人の歯磨きが上手になる、歯の問題で悩む人が減る。それが世の中に残せたら、生きた証が出来たんだと思います。
今日という日は二度と来ない。小さなことでも一つひとつ納得して歩んでいく。せっかく生きているんだから、ありったけのことをやりたい。そしてチャンスへの感覚を研ぎ澄ましておきたい。生きているってそういうことだと思っています。 本当のことを言い合える人に向けて、本当の商売をずっと続けていく。それが22世紀も23世紀も通じることだと思って頑張っています。
<会社情報>
株式会社夢職人 | |
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所在地 | 大阪府箕面市半町3-14-13 |
設立 | 2007年6月 |
URL | |
※情報と肩書は取材当時のもの |