2025年09月04日

「人を残す経営」─ スギタ3代目社長が挑む
傘業界の価値再構築

「安い傘を作っていても利益がありません」―1936年に大阪で創業した老舗傘メーカー3代目社長が始めた挑戦。持ち運びは小さく、開けば大きく、風に強い「ショートワイド傘」や、折り畳み傘の開閉が電動でできる電動傘など、これまでにない商品を次々と開発しています。熱中症対策やSDGsへの取り組みは環境省や外務省からも評価され、大阪万博でも商品が使われることになりました。毎週東京で商談を重ねながら、「お金よりも人を残したい」と語る杉田社長の経営哲学に迫ります。

株式会社スギタ 代表取締役社長 杉田 佳之 様

使い捨て文化に立ち向かう「価値の再構築」

─御社の事業内容と、現在の取り組みについて教えてください。

私たちは1936年創業、来年で90年になる傘メーカーです。祖父が作った会社で、私は3代目になります。

今、傘業界はビニール傘の使い捨て文化で、どんどん安い商品になっています。ただ安い商品を作っていたら利益がないじゃないですか。だから、テレビが薄くなって画面が綺麗になったらブラウン管テレビがなくなったように、レコードがCDになってデータになって何万曲も劣化せずに持ち歩けるようになったらレコードを持ち歩く人がいなくなったように、傘もリノベーションできれば価値の再構築、価格の再構築ができるんじゃないかと考えたんです。

皆さんが持っている折り畳み傘と長傘、どちらも不便や不満を感じながら使ってますよね。折り畳み傘は持ち運びサイズは小さいけど、広げても小さくて体が濡れてしまう。畳むのも面倒だし、ジョイント部分が多いので風に弱い。長傘は持ち運びサイズが大きすぎて邪魔。

だから、持ち運びサイズが小さくて、広げると大きくて、畳むのが簡単で、風に強い傘があったらいいよね、というのを提案し始めたのが十数年前です。

─具体的にはどのような商品を開発されたのでしょうか?

主力商品の一つが「ショートワイド傘」や「トランスフォーム傘」です。持ち運びサイズは女性の日傘ぐらい小さいのに、開くと大きくなって、中に入った風が抜けていくからひっくり返って潰れません。その上、傘内部の熱も逃がせて熱中症対策になります。

もう一つの特徴的な商品が日本製の熱中症対策家電の電動傘です。テレビ通販のお客様向けに作った「パネル付き自動開閉傘」という商品で、ボタン1つで超絶簡単に開閉できることから、今テレビ通販で大絶賛頂いています。テレビ通販のお客様は50〜60代の女性のお客様が多いのですが、この商品について、興味深い口コミを頂きました。「便利だけど、私の母(80代90代)は力がないから使えません」というものです。バネを動力とする自動開閉は収納時に少し力が必要なんです。

これには気づきを頂きました。言ってみれば日本の【これからの縮図】なんですよ。少子高齢化で医療技術が発達して寿命が延びて、お年寄りがどんどん増えていく。地球温暖化で気温が上がった時に、電動傘のような便利なものがあっても力がなくて扱えない。お年寄りは熱中症弱者と言われ、子どもは外に出られなくて家に引きこもる。これでは不健康になってしまって、医療費も介護費も上がると思うんです。

先進国はみんな少子高齢化です。少子高齢化を進めないためにお年寄りが外に出て楽しんで病気にならず、働いてくれたらGDPも上がりますよね。

実は、シンガポールに行ったりもしています。シンガポールは特に暑い国だから、少子高齢化を進めないために世界中の熱中症対策グッズを紹介するという施策があるんです。そこで電動傘の機械部分は、東大阪市長の手助けもあり東大阪の企業とタッグを組んで、日本製ということにこだわった電動の家電日傘を世界に発信していくことを進めています。

SDGsや熱中症対策に着目した商品開発が、官公庁や万博を動かす

─御社の商品は環境省や外務省からも注目されているそうですね。

これはたまたまラッキーでもあり大変でもあったんですが、コロナがあった2020年ぐらいに、みんながマスクがない、防護服がないと言っていた時に、私たちは作ることができたんです。

「こんなことできるよ」とSNSで発信したら、たまたま友達にタレントなど発信力のある人が多くて、政治家の方々が見ていたんですね。そこで防護服やマスクを内閣府や厚生労働省経由での国立病院や地方自治体の危機管理部門に納入するようになりました。

政治家の方々や役人の方々とやりとりする機会が多くあって、「いやいや、私たちはマスク屋じゃなくて傘屋なんです」「こういう商品もやってますよ」と紹介したところ、「これはすごい使えるよね」「これ、SDGsだよね」となって、環境省のホームページに載せていただいたり、外務省の「現代日本デザイン100選」に選んで頂き、日本の代表として世界で博覧して頂いたりしております。

─万博でも商品が使われるそうですね。

大阪関西万博の運営をされている公益社団法人 2025年日本国際博覧会協会からご連絡をいただきました。大阪関西万博の入り口では入場待ちで並ぶじゃないですか。これから暑くなるから熱中症対策が必要で力を貸してほしいと言われました。そこで万博の入場待ちをされるお客さまに「トランスフォーム傘」を東エントランス広場で貸し出すことになりました。

今、僕らがやっているのは熱中症にフォーカスしたものづくりです。ただ雨が降ったら傘を差すから傘を供給したらいいよね、ということじゃなくて、どういう人がどのタイミングで、どういう年齢の人が、どんな使い方をするかをちゃんと考えて、その人にフォーカスした商品を作っていかないと。

僕はすごくビビりなので、宛先のない、ふわっとしたことが嫌なんです。ドライブでも目的がなくドライブできる人っているじゃないですか。あれは絶対無理で、僕は絶対場所を決めてからじゃないと車に乗れません。

「安くしなくても売れる」理由とは?
毎週東京で商談を重ねる、熱血営業スタイル

Big Advanceではどのような成果がありましたか?

大阪商工信用金庫から紹介されて使い始めました。月額3300円で、マッチングや福利厚生のサービスがあります。僕はどんなきっかけでもいいからいただけたらと思っているし、使えるものは何でも使おうと思っています。

岐阜の会社さんだったり、大阪の会社さんともマッチングしています。内容としては、熱中症対策の傘、環境省に選ばれている傘のリノベーション、内閣府の防災推奨をいただいている防災用品、それと元横綱の小錦と一緒にやっている日本製商品の販売という3つの軸があります。

先日も大手企業さんから出店のお問い合わせをいただいたところです。ちょうどこちらも在庫がある商品があったので提案しまして、これから商談をするところです。

Big Advanceに関わっている企業は、弊社も含めて小規模な会社が多いのが現状です。新規取引に対してまとまった資金を投入できる企業は少ないですし、連絡を取って商談は行うものの、実際に取引が始まるケースとそうでないケースに分かれています。多くの企業から「在庫は抱えられない」「先行投資は難しい」「売れた分だけ支払いたい」といった声を聞くのが正直なところです。しかし、弊社が対応可能なリスクであれば引き受けることで、商談が前進するケースも多いという印象を持っています。

─営業活動はどのように行われていますか?

僕は毎週半分ぐらい東京にいるんです。東京の時は3日間いたら大体1日に5、6件商談するので、15件ぐらいを1週間で、1年間ずっと毎週東京に行ってやっています。

今はなかなか物が売れない時代ですが、安くしなくても値段を上げる理由をちゃんと明確に提案できるような商品ということで、話はいっぱい来ます。でも実際は「これすごいけど、この値段で本当に売れるんですか?」という人が多いから、商談の数は多くなるけど、売上にするのは難しいですね。

「人のため」を軸とした経営哲学

─これまでのキャリアの中で、転機となった出会いはありますか?

シマノという自転車や釣り具の会社があって、そこの社長と昔から仲良しなんです。彼といろいろしゃべっていて、僕の知らない世界をすごく教えてもらいました。

次は小錦ですね。彼はチャリティーをいっぱいしています。小錦は強かったでしょ。ハワイで貧乏な家だったから、家族を幸せにしたいから日本に来てお金を稼ぐ、強くならなきゃいけないということで強くなったんです。

自分のためじゃなくて、誰かのために、という人なんです。自分のためだと心ってすぐ折れるんです。しんどかったらもういいやって。でも人のためだったら頑張れる。彼は今もチャリティーで東北の震災、熊本の地震、いろんなところに行っています。

それから、以前総務大臣を勤めていた武田良太さんです。防災大臣だった時に当社の商品が防災で使えるからということで、「俺の名前を使っていいから日本中に売り歩け、みんなが喜ぶから」と言ってくれました。

人という字は支え合っていると言いますが、人って本来はみんな平行線でしょう。知らなければずっと会わずに歩いているけど、ある時知り合って、まずどちらかが倒れないと「人」になれない。まず自分が相手を信用して、倒れることで信頼できる関係になる。相手がしてくれるから自分もするんじゃなくて、まず自分が倒れようって思えるかどうかだと思います。

─今後の展望について教えてください。

野村克也さんが言っていたんですけど、「三流はお金を残す、二流は記録を残す、一流は人を残す」と。

僕は今、子どもが3人いるんですが、その子どもたちに「お前の父ちゃんにめっちゃ世話になった」と言ってくれる人をいっぱい作れたらいいじゃないですか。お金なんか残したって、100万あったら120万欲しくなるし、1000万あったら3000万欲しくなる。そんなキリのないものを追いかけたって仕方がない。

小錦がパパとママに家を買ってあげた時、「パパママ、家の使い心地はどう?」と聞いたら、シャワールームを使った形跡がないんですって。「こんないいもの使えない」と言って、庭の水道で頭を洗っていると言ったそうです。人が暮らしていくにあたって必要なものってそんなにたくさんいらないんですよね。

それだったら、その分で人が幸せになって、自分の子どもたちや自分の周りを幸せにしてくれるような人を作った方がいいと思っています。目標はそれですね。

政治家みたいに爪痕を残すということじゃないけど、お金を稼ぐということよりは「あの人すごいね」って言ってくれる人を残したい。そのための商品を作りたいし、そのための行動をしたいと思っています。

「1人で食べたら餌、誰かと食べたらご飯」だと思っているので、会話をしながら、いろんなシナジーができるようなことをいっぱいしていきたいと思っています。

<会社情報>

株式会社スギタ
所在地 所在地:大阪府大阪市西区立売堀1-11-17
設立 1963年(創業1936年)
URL

https://www.sugitakasa.com/

※情報と肩書は取材当時のもの
  • SNSシェアこの記事をシェアする

関連記事を探す

アクセスランキング

  • オンライン面談実施中
  • お友達紹介キャンペーン