2025年12月04日

こんにゃくで外資企業とコラボ実現
国内外に展開する北毛久呂保の開発力

群馬県昭和村で約50年続くこんにゃく製造会社、株式会社北毛久呂保。3代目社長の兵藤武志氏は、「うまい、楽しい、おもしろい」を経営理念に掲げ、従来のこんにゃくの枠を超えた商品開発に挑戦し続けています。調剤薬局など意外な場所への販路開拓、ローソンや香港のスターバックスへの素材提供、さらにはペットフード進出も視野に入れるなど、既成概念にとらわれない展開を見せています。子どもの頃から親しんだ柔道で築いた地域ネットワークを活かし、近隣の仲間と新商品を開発したり、お祭りでトラクターパレードを企画したり。地域とつながりながら、失敗を恐れず、変わり続けることを楽しむ経営者の真髄を伺いました。

株式会社北毛久呂保 代表取締役 兵藤 武志 様

3代目社長が受け継いだもの、そして変えたもの

─まず、御社の歴史と兵藤社長が就任された経緯を教えてください。

群馬県昭和村で約50年前、私が小学校に上がる頃に父が創業したこんにゃく製造販売の会社です。最初は「久呂保こんにゃく」という協同組合として始まり、順調に成長していたのですが、私が中学3年生の時に、父が他社の保証人になっていた関係で倒産してしまったんです。

ただ、牛乳販売をしていた子会社は残せましたので、牛乳販売部門は社員に譲り、久呂保という社名だけを残して再スタートしました。

2代目の小渕さんは父の右腕だった方で、親族ではなく優秀な社員だったんです。私の次の社長候補も、息子ではなく社員を考えています。会社は血筋だけではなく、能力のある人が継ぐべきだと考えています。

─兵藤社長が就任されてから、大きく方針を変えられたそうですね。

はい。以前はスーパーへの卸売りとお土産物が中心でしたが、私が社長になってからは、スーパーとの取引は東京の2軒程度に減らしました。業務用とお土産物中心に切り替えたんです。

当社の理念は「うまい、楽しい、おもしろい」です。とにかく面白い商品を作って、変わった販売先を開拓することに注力しています。

小売り商品は、お土産屋さんのほか、全国の調剤薬局や本屋さんなど、あまりこんにゃくが売られていなさそうなところに置いています。業務用では、ローソンのプライベートブランドのこんにゃく入りミルクティーに採用されたり、香港のスターバックスで売られたこんにゃくサラダに使われたり、大手企業のユニークな企画にも参加しています。

「他と喧嘩したくない」から生まれたユニークな商品開発

─こんにゃくのスイーツやおつまみなど、独自商品を開発されていますよね?

群馬県は全国のこんにゃくいも生産の約95%を占めるのですが、昭和村はその中でも主要産地です。同地域に暮らす同業他社と喧嘩したくなかったので、当社では独特な製品を製造していこうと考えました。

「なにか珍しいこんにゃく商品はないか?」と考えて試行錯誤しているうちに、こんなものを作れないかと外から問い合わせが来るようになりました。

おもしろいのは、食べ物だけじゃないんですよ。例えば、釣り用のワームがプラスチック製で環境に悪いということで、こんにゃくで作れないかという相談があったんです。それでこんにゃくワームを作ったことがあります。あと、テレビ局からこんにゃくでトランポリンを作れないかって頼まれて、実際に作ったこともありました。

─「おもしろい」を発想するときに大切にしていることは?

真面目に考えることはとても大切なことですが、真面目すぎると良いアイデアは生まれてこないんです。遊び心が何より大切です。

常に新しいことを考えていますよ。商品も売り方も得意先のことも、すべてですね。

─これまでの一番の失敗と成功について教えてください。

一番の失敗は、硬いこんにゃくかな。アワビみたいな硬いこんにゃくを試験的に作ったらとても良くてね。600万円かけて機械を作ったんですよ。そしたら、硬すぎてポンプが詰まって動かなくなってしまったんです。しかも、その時たまたまテレビ番組の取材が入っていて、「ワンマン社長vs従業員」というような取り上げられ方をしてしまったんですよ(笑)。「社長がまた勝手に機械を買ってきた」「社員の不満はピークに達した」という感じで、ちょっと参りましたね。

それで、社員からは「新商品開発禁止令」が出されました。まあ、そんな禁止令が出されるほどにはフレンドリーな関係性です(笑)

一番の成功は、お酒のおつまみとしてヒットした「かみかみこんにゃく」ですね。父が少し考えていたものを私が展開しました。ブラックペッパー味とスパイシービーフ味の2種類だったんですが、最近、社員の発案で、アンチョビガーリック味とタンドリーチキン味を追加して、パッケージも今っぽく変更しました。

─失敗も次につながっているんですよね(笑)?

もちろんです。失敗は多いですよ。でも、失敗の経験は引き出しに入っているんです。「あの時こうだったら、これをやるとこうなる」と。だから、何か作ってくれないかと相談された時に、パッと出てくるんです。

一番の成功「かみかみこんにゃく」

ドバイから始まった海外への挑戦

─海外進出のきっかけを教えてください。

商工会で「海外に行ってみないか」と声がかかったんです。やる気満々でドバイに行ったんですが、日本人が誰もいなくて。言葉も通じないですしね、1人で3日間ふらふらしていました(笑)

ですが、展示会に行った時にショックを受けました。いろんな国の人が集まっていて「こんな場所があるんだ。世界には、こうやって真面目に海外に売ろうとしている人たちがいるんだ」って。

刺激を受けて帰国したら、不思議なことに海外向け商品を開発する機会が巡ってきたんです。商工会で海外向けに「こんにゃくハンバーグを作ろう」という話になり、沖縄のアメリカ軍基地に行くことになったり、ロシア大使館の方が昭和村に来たことがきっかけでロシアに行ったり。新婚旅行以来、海外には全く行ってなかったのに、年に4回ぐらい行ったんです。「これは海外が俺を呼んでるんだ」と勘違いしちゃって、海外進出に思いを巡らせました。ただ、渡航費含めて経費がかかりますので、社員から今度は「海外渡航禁止令」が出されました(笑)

─現在はどの国に展開されていますか?

今は香港を中心に展開しています。これまでいろんな国に商材を持って行って、国ごとに受け入れられるものが全く違うことがわかりました。

一番受け入れやすいのは麺ですね。すでに白滝がどこの国にもあるので、こんにゃく麺は抵抗なく受け入れられます。ラーメンも代替麺として人気があって、UAEなど中東でも受け入れられています。

一方、アメリカでは「フルーツこんにゃく」というスイーツを提案しています。ビーガンの方も食べられますしね。

こんにゃく麺は海外でも人気

Big Advanceで月20万円の成果、ペット市場への新たな挑戦

─Big Advanceを導入されたきっかけを教えてください。

金融機関からの紹介です。展示会以外で新しい得意先を開拓する手段がないことが課題でした。展示会は費用がかかりますし、地方は営業先も限られていて、「営業って言ってもどこに行ったらいいのか」という状況でした。Big Advanceでは商品にこだわりのある企業やギフトの卸をしている企業を全国から探しています。

─Big Advanceでの成果を教えてください。

Big Advanceのマッチングで出会った企業との取引では、月額20万円ほど売り上げが伸びています。例えば、岐阜で珍味の卸小売業をされている企業とは以前からお取引していたんですが、Big Advanceで商談して、取引量が増えました。

あと、ドレッシングなどを製造している会社と一緒に開発できないかと考えていますし、最近はペットショップやペットサロンにマッチングを申し込んでいるところです。

─ペットショップやペットサロンとはどういうことでしょうか?

「Ojisan’s 11(おじさんズイレブン)」というチームを作ったんですよ。昭和村の仲間11人ぐらいで、昭和村のトマトやリンゴなどの廃棄野菜でソースを作ったり、スイーツこんにゃくを作ったり。

それで、砂糖不使用のリンゴのコンポートを作ったんです。もともと人間用に作っていたんですが、直売所で大量に買ってくれた人がいて、「ずいぶんお好きなんですね」と話しかけたら「犬がね」って言うんです。「犬が食うんかい」ってつっこんじゃいましたが、その犬、本当に美味しそうに食べるんですよ。これはビジネスチャンスですよね。これがきっかけでペット業界にも広げられるんじゃないかと思いつきました。

「かみかみこんにゃく」の犬用も考えています。犬は噛むことが好きですから厚みを出してね。調味料はできる限り使わないので、ほとんど味はしないですよ。ペット関連の企業とマッチングして、何かやれないかなと考えています。

幼少期から続けた柔道が生んだ地域との強固なつながり

─兵藤社長にとって、事業や人生に影響を与えた出会いはありますか?

子どもの頃から続けている柔道でしょうか。今は昭和村柔道連盟の会長をしています。

沼田(昭和村の隣接市)の中学校は小さいんですが、全国大会や関東大会に行くような強豪なんです。従業員にも柔道部出身者が結構多いんですよ。

次期社長候補の社員も柔道の教え子で、入社した頃は私のことを「先生」と呼んでくれてましたが、先ほども話した禁止令を出してきます。「いい加減にしてくださいよ」なんて言って。本当にフレンドリーな関係です(笑)

─柔道を通じたつながりが事業にも活きているんですね。

そうですね。今でも高校時代の柔道部の顧問に対する愚痴で盛り上がったりします(笑)。「Ojisan’s 11」のメンバーにもいますし、地域のネットワークは本当に大切です。

そのネットワークがあるからこそ実現できたのが、「しょうわむらさくらまつり」でのトラクターパレードです。昭和村にはこんにゃく農家が50軒もあるんですが、トラクターを40台集めてパレードしたんです。柔道でつながった仲間たちにも声をかけて実現しました。これは観光資源になると思っています。

変わり続けることを恐れない、こんにゃくを超えた挑戦

─今後の展望を教えてください。

これからも変わったこんにゃくは作り続けていきます。同業者の中でもそういうふうに期待されていますし、おもしろいことに、同業のこんにゃく屋さんとは仲がいいんですよ。

ただ、こんにゃくの可能性はもっと大きいと思っています。食べ物以外でこんにゃくが使われていくと、おもしろいことになるはずです。最近では、車椅子用のクッションをこんにゃくで作りました。おもしろいことをやりつつ、世の中のためになることをやっていきたいですね。

<会社情報>

株式会社北毛久呂保
所在地群馬県利根郡昭和村大字橡久保588
設立1974年6月
URL

http://www.kuroho.com/

※情報と肩書は取材当時のもの
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