2025年10月09日

注目企業 社長インタビュー vol.1
株式会社エポラ 代表取締役社長 竹村孝介氏
「縁を楽しむ」で年商35億円

-愛媛発「日本一あたたかい通販会社」を目指す竹村社長の経営術-

1994年創業、愛媛県松山市に本社を置く株式会社エポラ。化粧品、ヘアケア商品、健康食品の企画・製造・販売を手がけ、年商35億円を超える通販会社です。新卒入社から16年で社長となった竹村孝介氏は、先代から続く「お客様一人ひとりと向き合う」社風を生かし、「非効率経営」を実践しています。一見非合理に見えるこの経営手法に、地方企業が持続的成長を実現するヒントが隠されているようです。

株式会社エポラ 代表取締役社長 竹村 孝介 様

地方発35億円企業の成長の秘密

―昨年(2024年)の年商は35億円を超えたそうですね。愛媛県松山市という地方の企業がどうやってここまで成長されたのか、大変興味深く思っています。まず、御社の事業概要と取り扱っている商品について教えてください。

当社は1994年の創業で、今年で31年目を迎えます。愛媛県松山市に本社を置き、島根県出雲市に支社および健康食品の製造工場を持っています。事業内容は化粧品、ヘアケア商品、健康食品の企画・製造・販売です。主要販路は自社の通信販売で、売上の85%を占めています。基幹ブランド「epo(エポ)」のメインターゲットは55歳から60代の女性です。

―竹村様は新卒から入社されて社長に就任されたそうですが、これまでにどのような経験を積まれたのでしょうか。

特別なキャリアや学歴もないまま、2005年に新卒入社しました。当時は健康食品の訪問販売が主力で、売上3億円、従業員20〜25名ほどの小さな会社でした。小さな会社だからこそ、商品の企画開発からセールスまで一気通貫で携わることができ、開発と営業の両方を主体的に経験できたことが今では大きな強みになっています。

22歳で学んだ「生かされた人生」の意味

―営業をされていたということですが、当時から商品開発にも関わられていたのでしょうか。

はい、最初は営業職での入社でした。経験も実績も何もない私でしたが、やる気だけは評価していただき、入社1年目に新商品開発の責任者を任せてもらうチャンスをいただいたんです。それ以来、開発とセールスを両方担い続けています。今でも「いいものをつくって、全部売る!」が私のモットーです。

そして入社1年目に、生涯の指針となることを学びました。

まず、目の前のお客様を大切にすることです。もちろん「お客様を大切にする」というのは、どの会社でも誰もが口にします。ただ、当時の先輩方が実践していたのは、そのレベルが桁違いでした。たった一人のお客様のために深夜まで真剣に話し合い、「○○さんはこういうことで喜ばれた」と模造紙に書き込みながら、どうすれば喜びを超える感動をお届けできるのかを徹底的に議論していたんです。創業者である守谷会長(当時は社長)は「喜びは当たり前。その先にある感動を考えよ」と口癖のように語っており、その精神が現場の隅々まで息づいていました。その光景に心底圧倒されました。

ところが、仕事に慣れてきて働くことが楽しくてしょうがなかった入社1年目の12月に、営業活動中に国道でトラックと正面衝突する大事故を起こしました。車が大破し、前頭部から大量出血。生きているのが不思議だと言われるほどの事故でした。

目を覚ましたのは病院のベッドの上でした。CTスキャンの結果は、内臓破裂も骨折もなく、前頭部の裂傷のみという奇跡的な状態。けれども安堵したのも束の間、「首の付け根と胸の前に大きな腫瘍があります」と告げられました。病名は“悪性リンパ腫”――血液のがんでした。元気だけが取り柄の23歳の自分にとって、その宣告はあまりに突然で、大きなショックでした。

思い出すと今でも泣きそうになるのですが、何者でもない入社1年目の私に対して、会長を含む全仲間が精神的にサポートしてくれました。入院中、毎日のように千羽鶴や写真、メッセージカードが届き、4人部屋で私のベッドだけが装飾で埋め尽くされていました。そのおかげで孤独を感じることはなく、むしろ落ち込みがちな気持ちを大きく前向きにしてもらいました。

会長からは「あなたは事故によって生かされたのよ、必ず元気になって帰ってきなさい」と励まされ、当社の健康食品を「一日も欠かさず飲むこと」を約束させられました。抗がん剤の副作用で食べられない時も、その約束だけは守り続けました。

10か月の治療後、主治医から「スケジュール通りに治療ができたのは竹村君が初めて」と言われました。「生かされた人生を多くの人を幸せにすることに使おう」という使命感は、この体験が原点になっています。

無添加ユーグレナ開発に励む入社2年目の竹村氏

訪問販売から通販へ「らしさ」を貫いた転換

―2013年に訪問販売から通信販売に業態転換されていますね。それまでとは全く異なるノウハウが必要になったのではないでしょうか。

当時、すでに通販はレッドオーシャンで、あらゆるメディアに通販広告が溢れていました。私は開発とセールスの責任者でしたが、会長と「自分たちらしくないことはやらない」と決めて通販事業をスタートしました。後発での参入だったからこそ、通販の常識にとらわれて本当にやりたいことができなくなるくらいなら、通販はやらなくていい。訪問販売と同じように、こちらの温度をお客様に感じてもらい、お客様の温度も感じられる…そんな顔が見える通信販売をやろうと決めました。

―訪問販売でお客様一人ひとりと向き合ってこられた経験を通販でも活かすとおっしゃいましたが、それは効率面では課題もあるのではないですか。

おっしゃる通りです。一見すると非効率で非合理なことをたくさんやっています。例えば、3年前にコールセンターを自前で立ち上げたのもその一つです。月2万件の入電があり、合理性だけを考えれば外部委託すべきですが、委託先ではオペレーターの入れ替わりが多く、大切なお客様の対応を安心して任せられないと判断しました。一般的なコールセンターでは「1時間に何件対応したか」「いかに短時間で処理したか」といった効率指標で管理しますが、私たちは圧倒的に対話品質「いかにエポラらしい対応ができるか」を重視しています。外部センターでは必須とされるトークスクリプトは存在せず、各々がエポラらしさを理解してお客様と向き合ってくれています。

さらに「ダンボタイム」という、全社員が月1回・1時間、お客様の声だけに向き合う時間も設けています。名前の由来はディズニーアニメの耳の大きなゾウ『ダンボ』です。その時間は他の仕事は禁止、携帯電話も出てはいけません。私が最も重要な業務と掲げ、今ではすっかり浸透しています。

また、私も毎月全国のお客様のお宅を訪問して、直接ご意見をいただいています。これが私にとって最も楽しい仕事なんです(笑)。

「効率の反対側に競争力がある」

―そうした温かい接客を重視される一方で、新規のお客様にはどのようにアプローチされているのでしょうか。

矛盾しているように思われるかもしれませんが、新規の集客には広告を出して、商品の機能を前面に押し出したプロモーションをしています。ただし、新規集客は通販ビジネスにおける一丁目一番地でしかなく、ここには常に最新の技術やノウハウが求められます。本当に大切なのはその先です。一度ご購入いただいたお客様にどれだけ温かいおもてなしをし、長く深い関係を築けるか。ここに重点を置いています。この取り組みこそが、私たちが掲げる「日本で一番あたたかい通販会社」を体現するものだと信じています。

―御社の接客方針と、一般的に求められる「効率化」とのバランスはどのように考えていらっしゃいますか。

「バランス」というよりも、私たちは意図的に非効率を選ぶことがあります。効率の反対側に競争力が生まれる可能性があると考えているからです。温かいおもてなしのために時間を掛けることも、通販でありながら多くのお客様に直接お会いすることも、商品づくりに手間暇をかけることも…一見非効率に見えることが、すべて“私たちらしさ”を形づくっています。長い目で見れば、それこそが競争力になると信じています。

パーパス「en-joy」縁を楽しむ経営

―2021年に社長に就任されましたね。創業者から引き継ぐことは大きなプレッシャーだったと思いますが、どこから手をつけられたのでしょうか。

創業者である会長は偉大な人です。38歳の時に女手ひとつで起業して以来、愛情をもって社員を育て、誰よりもお客様に向き合ってこられました。

私には会長のような経営はとても真似できません。あまりに偉大だからこそ、経営のやり方は自分らしくやるしかないと思いました。けれども、会長がつくってきた“在り方”は絶対に引き継ごうと心に決めたんです。だからこそ、会長から教えられてきたことをきちんと言語化し、再定義して、仲間と共通認識を持とうと考えました。そこでまず取り組んだのが「パーパス・ミッション・バリュー」の再設計でした。

パーパスは、「en-joy! 縁を楽しむ」です。ご縁がワクワクを生み、そのワクワクがまた新しいご縁を紡ぐ…そんな社会をつくりたいという思いを込めています。さらに、enjoy という英単語は「縁(en)が喜び(joy)になる」と読むこともできます。まさに私たちが大切にしている考え方を端的に表しています。

ミッションは「日本で一番あたたかい通販会社」、バリューは「明るく・楽しく・前向きな毎日」です。

―これまでお伺いしてきたお客様との向き合い方も、まさに「日本で一番あたたかい通販会社」を体現されていると感じましたが、他にも具体的な取り組みがあるのでしょうか。

地元・道後温泉にお客様をお招きするイベントを毎年開催しています。また、ブランドの熱狂的なファンによるアンバサダー制度や、大切なお客様一人ひとりに専任スタッフが寄り添う「感動プログラム」なども実施しています。

私たちは地方にあって、テクノロジーやサイエンスの分野で最先端を行くわけではありません。だからこそ、お客様にどこまで深く執着できるか…そこにこそ、私たちの最善の戦い方があると考えています。

守谷会長と竹村氏

反対意見こそ独自性の証明

―テクノロジーもサイエンスも最先端ではないとおっしゃいますが、商品開発で重視されていることを教えてください。

独自の「熱狂ポイント」を創造することです。2006年から、ユーグレナ(ミドリムシ)を賦形剤(ふけいざい)と呼ばれる粒を固めるための添加物を一切使わず、食品添加物完全無添加で固形化するプロジェクトに挑みました。当時は「賦形剤なしで固めるなんて不可能だ」とまで言われていましたが、理想は「一粒のすべてが栄養成分でできていること」…その想いが出発点でした。全国の製造会社に相談しても門前払いばかりでしたが、諦めずに挑戦を続け、2008年にようやく世界初の無添加ユーグレナサプリメント『ハイ・ユーグレナ』を完成させることができました。今もなお、誰にも真似できない独自の技術として私たちの誇りになっています。

世界初の無添加ユーグレナサプリメント『ハイ・ユーグレナ』

―化粧品事業の『10 or LESS(テン オア レス)』は原材料が10種類以下とお聞きしましたが、これは業界の常識とは真逆のアプローチですよね。

2018年の化粧品参入時、業界の常識に強い疑問を持ちました。多くの化粧品には数十〜百種類以上の原材料が使われ、その大半はテクスチャーや香り、色味といった“使い心地”のためです。販売元に用途を尋ねても明確な答えが得られないことも多く、販売している自分たちが説明できないのはおかしい…そう考えました。そこで掲げたのが「原材料は10種類以下しか使わない」という徹底した引き算の発想『10 or LESS』。「これ以上削るものが無い状態こそ最高の上質」を開発ポリシーに掲げ、残した原材料一つひとつに徹底的にこだわっています。結果、化粧品事業は3年目で健康食品の売上を超えるまでに成長しました。

―商品開発で大切にされている考え方はありますか。

「票が割れること、反対意見がたくさん出ることを大事にする」ということです。誰かにアイデアを話してみんなが「いいね」と言うものは、往々にして大したことがありません。むしろ、みんなに共感されないことに、他社が真似できない独自性の入り口があると思います。『10 or LESS』の「原材料10種類以下」も全国の製造会社から「何のためにやるんですか」と例外なく疑問視されましたが、その反応を聞いてゾクゾクしました(笑)。反対されることこそ、独自性の証明。そう確信しています。

化粧品ブランド「epo(エポ)」原材料10種類以下に限定した『10 or LESS』コンセプトを体現する化粧品シリーズ。

「表向き差別化、裏側合理化」の真髄

―2015年にユーグレナグループと資本提携されましたが、どのような背景があったのでしょうか。

ユーグレナ社の創業時(2005年)からのご縁があります。世界初のユーグレナ大量培養成功に協力した石垣島の企業(現ユーグレナグループ:八重山殖産)を紹介したのが当社の会長でした。さらに、ユーグレナ社の創業メンバーの一人は会長の長男です。

以来、同じユーグレナを扱う「良きライバル」として切磋琢磨してきました。私自身も「ユーグレナ社には絶対に負けないぞ」という気持ちで10年間やってきましたが、競い合ううちに「共にユーグレナを世の中に広めていこう」という思いが強まり、2015年の資本提携へとつながりました。

―そうした経緯でグループの一員になられたわけですが、グループ経営における戦略はどのようなものでしょうか。

グループ経営の理想は「表向きは差別化、裏側は合理化」だと思います。表向きは各企業がそれぞれ違う個性を発揮し、お客様がグループ会社だと聞いて驚くような状態。一方で裏側は物流、システム、決済などを合理的に統合してコストメリットを享受します。各社のブランドや顧客コミュニケーションは完全に独立性を保っています。

同質化してしまうと、一社がダメになった時に横並びで影響を受けます。全く違う個性を持つからこそ、どこかが不調でも他が補える…いわゆるポートフォリオ経営の強みが発揮できます。

―グループ内での関係性はいかがでしょうか。

資本上は親子ですが、良きライバルであり、仲の良い兄弟のような感覚です。個性や戦略の押し付けは全くありません。特にユーグレナグループのヘルスケア部門は同志の集まりで、メンバー全員が尊敬すべき最高の仲間です。どの企業も個性豊かで、ターゲットも商品も全く違います。世の中の人を必ず幸せにできると確信できる素晴らしいグループです。

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「日本で一番あたたかい通販会社」をやりきる

―最後に、今後の展望について教えてください。

いつの日か「日本で一番あたたかい通販会社」として日本中に認知される存在になりたいと思っています。お客様に「明るく楽しく前向きな毎日」という価値を届け、その輪を広げていきたいと考えています。

競争の激化やコスト上昇など事業環境が厳しくなる中で、今最も大切なのは「楽しむ」精神性だと思います。思い通りにならないことさえ楽しめる力が、私たちの原動力になると信じています。

かつては「3年で100億円」という数字目標を掲げたこともありました。しかし今は、数字を追うのではなく、自分たちがまず楽しみ、その楽しさをお客様に伝えていくことこそが本質だと考えています。

ご縁を楽しみながら、一人でも多くのお客様に喜びと感動をお届けする。そうやって歩んでいけば、その先に必ず「日本で一番あたたかい通販会社」があるのだと思います。

「効率の反対側に競争力がある」。矛盾するような経営術に、地方企業の戦略的思考が表れています。システムや物流は合理化し、顧客対応は徹底的に非効率を貫く。このメリハリある経営判断は、多くの経営者にとって示唆に富むはずです。

竹村 孝介(たけむら こうすけ)
株式会社エポラ 代表取締役社長

1981年愛媛県新居浜市生まれ。2005年株式会社エポラ入社。 2021年同社代表取締役社長に就任。 2022年には新ブランド「epo」「FUSARI」をリリース。

執筆者:堀 絵里子
コネクト編集部

植物・インテリア雑誌の編集、教材編集を経て、「コネクト」編集部へ。休日は3匹の猫と、読書という名の昼寝が至福のひととき。植物はよく枯らすが、いつかベランダで蓮を育ててみたいと密かに思っている。

■編■集■後■記■
自他ともに認める仕事人間の竹村氏は「自分を前向きにするセルフケア」として、現在はファスティングにどハマり中。固形物を控える時間を作ることで集中力が高まるとのことで、専用の「ファスティングドリンク」まで開発されたそうです。
「これをやると前向きになれる、というスイッチになる習慣を一つでも持つといいですよ」とアドバイスをいただいたので、弊社の取材担当者は夕食後から翌日の昼食までのゆるファスティングに挑戦中。集中力が増してよく働ける上に、ランチの時間がより楽しみになる!と喜んでいます。筆者の「前向きスイッチ」は寝る前にやる水回りのお掃除。読者の皆様も、ご自身なりの「前向きスイッチ」を見つけてみてはいかがでしょうか。

<会社情報>

株式会社エポラ
所在地愛媛県松山市来住町1383-1
設立1994年11月
URL

https://www.epauler.jp

※情報と肩書は取材当時のもの
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